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現代文
永井玲衣先生
思考力養成を専門にする哲学研究者。クリティカルシンキング、哲学的思考などの高い専門知識とその指導経験から、全ての教科で求められる「論理的思考力」を徹底的に鍛える全く新しい授業を展開。近寄りがたい「論理」を、わかりやすく楽しいワークで体験させる。難解な文章を正しい「論理」で正確に読み解く力を養成し、大学入試にとどまらない汎用性の高い問題解決力を提供する。
「夏休み、全然勉強できなかった……」「まったく集中できなかった、後悔している」。夏休み明け、しばしば受験生から聞く言葉です。こわいですよね。焦りだけが先行して、手が止まってしまい、頭がぼうっとしてしまう。勉強の計画を立てたけれども、いまいち集中できない。夏期講習はたくさん受講したけど、あんまり本腰を入れることができない……。私にも覚えがあるので、受験生のみなさんの話を聞くと、思わず共感をしてしまいます。
大人になった今だからこそ、あのときのことを振り返ってみて、気がつくことがありました。今回は、みなさんにそのことについてお話したいと思います。
「夏休み」という区切りはわかりやすく「夏はこれをやろう」「長期休みがあるのだからこれは後回しにしよう」と私たちは思いがちです。ですが、その「わかりやすさ」こそが油断の始まりです。夏休みから、勉強のリズムを作ろうとしていませんか?夏休みから詰め込もうとしているトピックはありませんか?ですが、よくよく考えてみると、夏休みはこれまでの生活スタイルと全く異なる日々です。それに全体像がわからないまま無理な計画を立ててしまい、それが達成できないことでより気持ちが萎えてしまうことにもなります。そうならないためには、すでにこの時期から、夏休みに向けての生活リズム・勉強スタイルを徐々に育んでおくことが必要です。「夏からやろう」ではなく、今からすでに、ちょっとずつでも、始めておくことです。日中は学校がありますから、朝や夜に、夏休み中も同じように勉強できるような一日のリズムを作っておくことです。
私たちは急激な環境の変化に対応することが難しい生き物です。まずは夏に何をするべきなのか目標を立てましょう。そしてそれを、夏休みから始めるのではなく、いまからちょっとずつでもいいので、取り掛かりましょう。それは、みなさんの身体と脳を、環境に徐々に適応させていく練習のひとつです。いきなり熱いお湯に入るのではなく、少しずつかけ湯をして、身体を慣らすのと同じです。
では、個人の目標とは別に、現代文の講師として、何に取り組んでおくといいのかについて最後にお話します。まずは漢字を終わらせること。秋以降に漢字を積み残してしまうと、なかなかつらくなります。もう一つは、これまでの復習と、自分の苦手ポイントの列挙に取り掛かっておくことです。現代文は過去問をバリバリ解くことに今すぐ飛びつきたくなりますが、過去問演習は自分の実力を試すこともひとつの目的ではあるので、もう少し自分の国語力が明らかになってから、取り組んだ方が有益です。これまで受けた模試の復習や、授業で解いてきた問題で、間違えたポイントを振り返ることに時間を使いましょう。
みなさんは何に関心があるのでしょうか。何を知りたいと思っているのでしょうか。何を好きだと思っているでしょうか。この時期は、まだまだ受験というものに対する実感が乏しく、とにかく目の前の課題をこなすことに精一杯だと思います。ですが、それはそれで構いません。受験だけがみなさんの人生のすべてではありません。受験だけを見据えて勉強することはあまりにむなしく、受験それ自体が目的ではないからです。
では、この時期に何をするといいのでしょうか。もちろん学校生活を楽しんだり、趣味を楽しんだりすることがまず大切です。そしてそれは「受験」という不思議な制度を乗り越えた先にあるものと、けっして無関係ではありません。受験はただの制度であり、その先に何があるのか、何を楽しむのかが重要です。それは、いま楽しいと思っていることと、関係がないわけはありませんよね。
自分は何に関心があるのだろうか。何を好きと思っているのだろうか。自分のことは自分がいちばんわかっているとはいうけれども、本当にそうでしょうか。意外に、自分のことは自分でわからないものです。実際、何が好き?とか何に関心がある?と聞かれると、答えに詰まる人も多いのではないでしょうか。そしてそれは当たり前のことでもあります。
わたしたちは自分の関心事を、自分ひとりで見つけることはなかなかできません。いろいろな人の話を聞いたり、観に行ったり、経験をしたり、ひとに問われたりして、ようやくちょっとずつ形になるものです。だからこそ、今のうちに、多くの人やものごとに触れて、あなたの関心事を浮かび上がらせてください。それがそのまま、大学で学びたいこと、経験したいことになるはずです。そして間違いなく、受験という制度を乗り越えるための大きな力になります。ゆっくり、あなたの「好き」を育ててくださいね。