講師特別インタビュー 教壇に至るマイヒストリー 和歌にだけに許された『誠の精神』千年前の心と共鳴する 第28回富井健二先生

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講師特別インタビュー 教壇に至るマイヒストリー 和歌にだけに許された『誠の精神』千年前の心と共鳴する 第28回富井健二先生

本好きの祖母の影響か、いろんな本を読みました。なかでも古文を題材にした短編、中編小説を好むようになりました。中学のときの愛読書は芥川龍之介・菊池寛です。「座頭市」「鬼平犯科帳」などという時代劇も大好きでテレビの前に釘付けになっていました。 


高校1年のとき、谷崎潤一郎の『少将滋幹の母』という衝撃的な作品に出会いました。今でも読み返す自分の原点とも言える作品です。 


時の権力者である藤原時平に母を奪われた滋幹の、とても数奇な運命が描かれた作品です。物語の最後、40数年ぶりに母子の再会が果たされるシーンは感動的、夕闇に満開の山桜が白く浮き立つ中、少将となった滋幹は老いた母の姿を目にした瞬間、長年抑え込んできた母への想いを溢れさせ、地べたにひざまずいて幼子のように激しく泣きじゃくります。息子の思慕と母の愛が溶け合い、桜が二人を静かに包み込む中、物語は幕を閉じるのです。 


何度も読み込んだ結果、本はボロボロ、現在本棚にあるものは四冊目です。『今昔物語集』などを題材にしたこのような作品をきっかけに、原典そのものへと興味が向かうようになっていきました。香を焚きしめた装束の麗しさ、軍時の弓弦の響きや鎧のこすれる音、現代の夜とは異なるどこまでも深く続く恐ろしい暗闇などなど、そんな古文に興味をかきたてられ、古の人々の息遣いを感じるうちに、気づけば古文の虜になっていました。


専門的な研究の世界から高校生に伝える喜びへ

大学では国文学、大学院では中国の漢文と日本の古文を比較する「比較文献学」を専攻しました。そして、男をもてあそんだ女性(小野小町)が骸骨になってからも歌を詠む、といったおぞましいお話(髑髏伝説)のルーツを中国の小説の中に見出そうとひたすら細かく分類していく専門的な作業に日々の大半を費やしていたように思います。 


いつのまにか、自分が心底「おもしろい・価値がある」と思ったものを人に話して、喜んでもらえることに興味を持つようになっていました。たとえば、幼い子どもが、海岸で拾った普通の貝殻を「こんなに綺麗な貝殻を拾った!」と目を輝かせて親に話すような、幼児の純粋性とも言いましょうか、客観的に見ればただの貝殻でも、自分にとっては宝物で、だからこそ話したくなる。そんな気持ちを持ち続けられたらいいなと。 


当時、予備校で高校生に古文を教えるアルバイトをしていて、「自らが心底おもしろいと思って夢中になって話すことしか相手の胸に響かない、自分が好きなものを存分に伝えることが生徒の喜びにつながるのだ」と痛感させられました。そしてこんな気持ちで仕事を続けられればいいなとも…。そして今に至っています。

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