大学での学びの内容を知る①(環境工学・環境科学系)Part5

大学での学びの内容を知る①(環境工学・環境科学系)Part5
大学での学びの内容を知る①(環境工学・環境科学系)Part5

この記事は「特集 大学での学びの内容を知る①Part4」の続きです。よろしければそちらも併せてご覧ください。


2⃣環境工学・環境科学系の学びの実例~立命館大理工学部環境都市工学科~

■琵琶湖と向き合う 閉鎖性水域の水質研究

 「湖沼や流れの緩やかな川のような閉鎖性水域では、水質汚濁の問題が実は全然解決していません。昔の問題だと思われがちですが、そんなことはなくて、私たちのすぐ近くの琵琶湖でも起きています。栄養分が多くなりすぎてプランクトンが増殖する『富栄養化』によって、アオコや赤潮と呼ばれる現象が発生する。この問題がなぜ起こり続けるのかを研究しています。

 例えば今、滋賀県や近江八幡市と一緒に取り組んでいるのが、市内にある湖の水質問題です。栄養塩の濃度が上がって毎年アオコが発生し、臭いもひどく、琵琶湖への影響も指摘されていて、地域では原因をめぐる議論になっています。

 私は『〇〇のせいと断定はしません』という立場です。影響を与えている可能性のある陸側の湖は規模が小さく現象が比較的わかりやすいので、こちらはしっかり調査して原因を突き止める。その上で、琵琶湖は大きくて複雑だから、琵琶湖全体の状況に対して『どの程度影響しているのか』という問いに対して確実な回答を行うのは難しい。であれば、影響の有無を断定するより問題の解決を目指す。そういう整理で進めています。

 琵琶湖の南側、南湖の水質は京都や大阪の水道水源に直結する問題です。下水処理水が原因だという人もいますが、南湖には下水処理水はほぼ入っていないので関係ありません。むしろ温暖化、気温の上昇が原因である可能性が高く、水質をめぐる状況はこれからどんどん悪くなっていくと考えています。

 そこで私たちは、アオコがいつ発生するかを早期に警戒できる仕組みを研究しています。発生が事前にわかれば、あらかじめ水を貯めておく、その時だけ別の場所から取水するといった対応ができます。水を一カ所から取っているとそこが駄目になったときに全滅してしまうので、調達経路を多様化しましょうという提案です。

 ただし、新しい調達経路を探すというのは、そこの水が5年後、10年後に安全である根拠を示す未来予測の研究なので、現在のデータだけから導くことはできず、過去の事例に学ぶしかないという難しさがあります。他方、日本より暑い熱帯の地域でも人々は水を使い、水道もある。これからの日本を考える場合に世界の事例から学べることは必ずあるはずだという考え方で取り組んでいます」

■水が循環する社会をつくる

 「もう1つの柱が、水や資源の循環システムです。電気の分野では、太陽光などで分散型の発電をして、できた電気をグリッドで共有するスマートグリッドという仕組みが進みました。同じことが水や資源でもできないか、というのが発想の出発点です。技術的には、下水を再生してきれいな水を作り出すことはもうできるんです。ただ、作ったけれど使い道がない、ということが起こる。せっかく堆肥を作っても持っていく場所がなくて捨てられてしまうのと同じで、需要と供給が整わないと循環は成立しません。だから、飲み水のグレードなのか、生活用水なのか、庭にまく水なのかというように目的別に水質を管理して、必要な水質の水を必要な対象に届けるバランスを社会の中に作り上げることが研究テーマになります。

 究極の問いとして、例えば立命館大びわこ・くさつキャンパスを外部から完全に閉じたとして、水を全て自前で賄えますか、ということを考えています。実は、敷地に降った雨を全部集めることができれば、計算上、使う水はカバーできます。

 雨を集めること自体は、実は比較的簡単なんです。建物は雨を早く排除するように作られていて、屋根に降った雨は1つか2つのルートに集まって出ていく。その出口さえ捕まえれば、水は全て集められる。問題はその先で、実際には、水は放っておくと蒸発したり、水質が悪くなったり、貯めきれずに溢れたりする。だから、雨が降ってから出ていくまでの間に1回しか使わないのではなく、2回、3回、4回と循環利用する。これが究極までできれば、外から水を引く必要はなくなります。大地震が来ても水が止まらないという防災面の意味もあって、実はこの大学も自己水源を持っていて、地下水を浄化して自分で水を作る技術を備えているんです。

 世界でこの完全循環に最も近づいているのがシンガポールです。国土が狭く水源に乏しいシンガポールは、隣国マレーシアからの給水に頼ってきた歴史があり、水をめぐって両国の関係が緊張した時代もありました。だからこそ国家戦略として水の自立を進めていて、海水の淡水化に加え、下水を究極まできれいにして循環させる取り組みを行っています。再生した水は『NEWater』としてボトルでも配布されていて、技術的には全く問題なく飲める水準です。

 ところが、浄化した水は水道水としては使われていません。市民が『自分の排水を自分で飲むのか』と心理的に受け入れないからです。興味深いのは、反対するのは主に高齢の世代で、若い人ほど受け入れる意思を示す割合が高いということです。そのため、現地の水道公社では職員の半分が技術者ではなく、環境教育などを通じて、技術的には十分達成しうる『水の自立』を社会的にどう実現するかを考える人たちで構成されている状況です。

 実は同じ構図が日本にもあります。水道料金の値上げについてアンケートを取ると、比較的お金がないはずの若い人が受け入れると答え、高齢の方が反対するんです。これは、長い人生をこれから歩む人ほど、安定した安全なインフラを求めていることの表れだと思います。

 日本の上下水道は作られてから50年から100年が経ち、ちょうど寿命を迎えつつあります。多くの自治体では上水道事業が赤字で、税金で穴埋めされているのが実情です。特に下水道は、上水道と違って自分が恩恵を受けている実感を持ちにくく、なぜ料金を払っているのか不思議に思われやすい。けれども実は、公共水域の水質改善はずっと進み続けていて、その分のコストは皆さんの気づかないところで支払われ続けています。これをもっと見えるようにすべきではないか、という議論が今まさに起きているところです。

 そこで今、運営を民間に委ねる『ウォーターPPP(水の官民連携)』が全国数百カ所で検討されています。最近では宮城県で1,000億円を超える規模の上工下水一体民間事業(コンセッション方式)が、我々に身近な大津市水道でも今年度から10年規模の民間連携事業が始まりました。近年には水道法・下水道法も改正され、その土地その土地で必要な形の水道・下水道を整備すればよいという方向に大きく舵が切られました。

 能登半島地震で水道が壊れたとき、巨額の税金を投入して、かつての人口規模に合わせた水道を一から作り直すことが本当に正しいのか。安全な水を必要な分供給する目的が達成されるのであれば、水道ではない方法(例えば給水車で給水タンクに運搬など)で給水する方が合理的ではないのか。私たちは、そういう誰もやったことのない選択を迫られる場面に、これからたくさん直面することになります。日本は世界のどの国も経験したことのない速さで人口が減る、いわば課題の最先端の国です。50年前の人たちが作ってくれたものを引き継いだ私たちが、次に何を選択するのか。これは私たち中年世代だけでなく、今の高校生世代こそが向き合うことになる問いだと思っています」

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