特集 大学での学びの内容を知る②(スポーツ系) part1
「大学での学びの内容を知る」をテーマに大学の先生方のインタビューを交えながら大学での学びについて紹介する企画の第2弾である今回は、「スポーツ系の学び」を取り上げる。この分野では、競技力の向上や健康の増進といった「体を動かすこと」から、文化・興行としてのスポーツのように「社会におけるスポーツ」まで、さまざまな観点から文系理系の枠を超えて研究が行われている。今回の特集では、早稲田大スポーツ科学部、同志社大スポーツ健康科学部の学びの内容を紹介する。
1⃣スポーツ系の学びの実例~早稲田大スポーツ科学部~
早稲田大は、1882年に大隈重信により創立された東京専門学校を前身とし、140年以上の歴史と伝統を持つ、「学問の独立」「学問の活用」「模範国民の造就」を建学の理念とする大学である。スポーツ科学部は、2003年に人間科学部から発展的に独立する形で設置された学部で、2年次からは自分の興味に応じて、スポーツ医科学コース、健康スポーツコース、トレーナーコース、スポーツコーチングコース、スポーツビジネスコース、スポーツ文化コースの6つのコースのうち1つを選択する。また、学外諸機関と連携してさまざまなスポーツビジネスの現場での「スポーツビジネス実習」「フィットネスプロモーション実習」などのキャリア教育型の実習授業を行っている。
具体的なカリキュラムについては、1年次に「スポーツ教養演習」などの導入教育により、スポーツ科学の教養やプレゼン・ディスカッションの技法を修得する。2年次には上記の通り6つのコースから1つを選択し、個々の関心を徹底的に追究するため演習(ゼミ)を受講する。展開されるゼミの種類は50ほどあり、さまざまな興味や進路に応じた専門教育を実施している。また、大学院スポーツ科学研究科との一貫教育によって、成績優秀者に関しては最短5年で修士の学位を取得できる。

〈早稲田大スポーツ科学学術院スポーツ科学部 高橋義雄教授インタビュー〉

■研究の概要
「最近の研究のテーマの1つとして、『情報通信技術を使った未来型スポーツ』があります。具体的には、オンラインゲームを競技として行うeスポーツが、教育の場でどのように受け入れられているのかを調査しています。学校の先生や、eスポーツの部活動に取り組む高校生にインタビューを行い、eスポーツが学校教育や部活動の中でどのような意味を持ち得るのかを分析しています。これは共同研究として進めており、国内外の論文として発表しています。
一方で、私の研究の出発点には、地域における競技力向上の仕組みづくりがあります。博士論文では、秋田県の高校野球を対象に、地域の子どもたちや指導者、競技団体、行政などが関わりながら、競技力向上をどのように効果的に進めていけるのかを研究しました。これは、実験室の中で行う研究ではなく、実際の地域をフィールドとして、関係者と話し合い、仕組みを作り、試行錯誤しながら課題を見つけ、その解決方法を考えていく研究です。こうした方法は『アクションリサーチ』と呼ばれます。
競技力向上というと、筋力トレーニング、戦術分析、メンタルトレーニングなど、選手個人に直接関わるミクロな領域を思い浮かべる人が多いと思います。しかし、私が主に扱っているのは、スポーツに関する公的な資源をどのように配分するのか、どのような組織を作るのか、優れた指導者をどう育成し、どのような施設を整えるのかなどのスポーツをとりまく仕組みの研究です。さらに、競技者のキャリア支援や、国際的な競技力向上につながる大会・試合の設計、スポーツ科学の活用なども重要な柱になります。国際比較研究では、オリンピックでメダルを獲得している国が、競技力向上のためにどのような政策や施策を行っているのかが分析されています。もちろん、メダル数は人口や経済力によって大きく左右されます。しかし、それだけでは説明できない部分があります。そこに、政策や組織、育成システム、指導者、施設、スポーツ科学といった要素が関わってきます。
また、私の研究にはスポーツ産業への関心も大きく関わっています。1990年代にJリーグが誕生し、日本でもスポーツを産業として捉える動きが広がり始めました。それ以前の日本のスポーツは、学校スポーツや企業の実業団スポーツを中心としており、収入を得るというよりも、教育や福利厚生の一環として行われる側面が強かったのです。
ところが、プロスポーツが成立するためには、チケット収入、放映権など、スポーツの価値を権利化し、収益につなげる仕組みが必要になります。スポーツビジネスの面白さは、スポーツそのものに直接課金するわけではない点にあります。たとえば、サッカーをすること自体に著作権料がかかるわけではありません。しかし、試合会場に入る権利はチケットとして販売され、映像を配信する権利は放映権として取引されます。競技場の看板やユニフォームに企業名を掲出するスポンサーシップもあります。スポーツの大会名やロゴを商品に使う権利もあります。
このように、スポーツが生み出す価値の周囲に権利やビジネスが形成されています。その点で、eスポーツは従来のスポーツとは大きく異なります。ゲームにはゲームIP、つまり著作権や知的財産権が存在するからです。サッカーや野球は競技そのものを誰かが所有しているわけではありません。一方、ゲームは企業が制作したコンテンツであり、プレイや配信、イベントには権利があります。eスポーツを研究すると、スポーツとは何か、競技とは何か、ビジネスとは何かという問いが、従来とは違った形で浮かび上がってきます。

近年は、テレビ放送とインターネット配信の関係も大きく変わっています。多くの人が無料でスポーツを見られることは、スポーツの普及にとって重要です。一方で、配信サービスによって視聴するためには料金が必要になる場合も増えています。スポーツ界としては、収益を得ることで競技の発展につなげたいという考えがあります。しかし、視聴のハードルが高くなりすぎれば、多くの人がスポーツに触れる機会を失います。どこまでを無料にし、どこから有料の価値として提供するのか。そのバランスは、これからのスポーツ産業にとって重要な課題です。
私が考えるスポーツは、競技として勝敗を競うものだけではありません。スポーツの語源に立ち返れば、それは暇や退屈の中で、自分自身を実感し、他者と関わり、自分の存在を確認する遊びの側面を持っています。昨日の自分より少しうまくなったか、相手と向き合うことで自分の状態を知る。このような自己理解の時間を与えてくれるのがスポーツです。相手は倒すべき敵ではなく自分自身を理解するために必要なパートナーでもあり、リスペクトがスポーツの根本にあります。
スポーツを通じて社会を見ると、実に多くのことが見えてきます。競技力向上の仕組み、地域社会との関係、産業化、メディア、著作権、教育、健康、遊び、そして人間の自己理解です。私の研究室では、スポーツを通じて何がわかるのかを考える学生に来てほしいと思っています」












