特集 大学での学びの内容を知る③(化学系) part2
この記事は特集 大学での学びの内容を知る③(化学系) part1の続きです。よろしければそちらも併せてご覧ください。
■研究室での学生の学び
「私の研究室の看板は、植物油脂をはじめとする再生可能資源を使ったバイオマスプラスチックや、生分解性の材料、そしてリサイクルまでです。こうしたテーマをいくつか用意しておいて、4年生には、その中から選んでもらいます。4年生の段階では自分でテーマを設定するのは難しいので、こちらが用意したテーマから始めてもらい、卒業研究として取り組みます。工学部の場合、多くの学生はそのあと大学院に進み、研究の方向性や意味、背景を知るとともに、『研究というやり方』そのものを学んでいきます。自分でテーマを広げていけるようになるのは、博士課程くらいからですね。
実験については、最初は手順を細かく指示しますが、だんだん自分で組み立ててもらうようにしています。最初から難しすぎるテーマを与えて全くデータが出ないと、実験が面白くなくなってしまうので、はじめは少し甘いくらいでも結果が出るテーマをやってもらう。そこから実験を進めていくと、学生自身から『こうではないか』と試したいことが出てきたり、予想した結果と違う『失敗』が起こったりすることも出てきます。そうすると元々の想定したルートとは異なるルートを進むことになりますが、私はこのようなルート変更はとても大切だと考えています。ふと思いついたアイデアが予想もしていなかった発見につながることもありますし、そういったアイデアは失敗した原因を丁寧に検証した経験の積み重ねから生まれます。ですから、学生が『こうではないか』と考えたことや、思ってもみなかった方向に進んだ結果についても、学生と一緒に検討して次の実験につなげていきたいと思っています。
たとえば、学生の予想外の実験結果が、海の中で分解する新しい材料の研究につながったことがあります。これも偶然から始まりました。もともとその学生は、海で分解する材料を作ろうとしていたわけではなく、ゲルと呼ばれる、ゼリーのように水を多く含む材料を研究していました。その実験結果を見たとき、私は『あれ?』と思いました。普通なら、ゲルを乾かすと縮んで形が崩れてしまうのですが、その材料はきれいなシート状になったのです。しかも、一度乾かしたものをもう一度水につけても、元のようには膨らまず、水に強い性質を持っていました。引っ張ったときの強度もしっかりとありました。これは、その学生が最初から狙っていた結果ではありません。しかし、思いがけない結果から、とても面白い新しい研究の道が開けた瞬間でした。その学生は卒業が近かったため、その方向に研究を進めることはできませんでしたが、興味を持った別の学生がテーマを引き継ぎ、研究を発展させていきました。
研究室にはいろいろなテーマがあるので、扱うものも測定装置もさまざまで、その分メンテナンスも大変です。テーマによって基礎となる知識も違うので、指導する側も気は抜けませんが、それでも、学生たちと向き合う中でいろいろなことをやっていると本当に楽しいです」
■大阪大工学部応用自然科学科を目指す学生へのメッセージ
「これから進路を考える高校生の皆さんには、できるだけ幅広く勉強してほしい、というのが私からの一番のメッセージです。環境という分野は、私たちは『横糸』と呼びますが、私の専門である化学だけでなく、いろいろなことを知らないと取り組めない学際的な領域です。だからこそ、幅広く学んでほしいのです。
その意味でも、基礎学力はやはり大事です。AIがどれだけ進んでも、出てきた答えを最後に判断するのは人間ですから、その判断力や『目利き』の力を支えるのは基礎学力です。そして、環境については特に、社会に出て実際に使われる形にならないと意味がありません。大学でいくら環境の研究をしても、社会で実装されなければ意味がない。値段の問題やさまざまなしがらみもあって、本当に環境に良いことを実現するのは簡単ではありません。それでも、自分が学んだことをいつか社会で役立てるのだ、という気持ちを持って取り組んでほしいと思います。
正直に打ち明けると、私自身が化学の道に進んだのは、けっして最初から強い志があったからではありません。国語が苦手で理系に進み、選択できる枠が化学しか空いていなかった、いわば消去法のようなところもあったのです。ですから、何かが嫌いだからそこに行った、というのでもかまわないと思います。大切なのは、そこで好きになればいい、ということです。とはいえ、何かを嫌ったことで自分の可能性を減らしてしまうのはやはりもったいないので、基盤となる学力は身に付けておいてほしいです。
もう1つ伝えたいのは、いろいろな人とつながることの大切さです。地球環境という大きなものを、1人でなんとかできることは絶対にありません。いろいろなことを勉強し、いろいろな人と知り合って、それを少しずつ繋いでいく中で改善に向けて前進するしかないものです。近ごろは『ネイチャーポジティブ』、つまり自然が失われていくのを食い止め、傷ついた自然を回復させていこうという考え方も広がっていますが、これを本当に実現していくためには経済活動とうまく両立させていくことが不可欠です。学生や若い研究者を見ていると、行動力があり、社会との距離の近さや、私たちの世代とは違うものの見方があると感じています。自分たちの地球は自分たちで守る、という気持ちを持って、幅広い視野で学び続けてほしいと願っています」
●おすすめコンテンツ紹介
『使い捨てない未来へ プラスチック「革命」2』
更家悠介責任編集(日経BP2022年) 
~コメント~
「環境についてはさまざまな論点や立場からたくさんの書籍が出されています。環境に関する本を何冊か読んでみると、いろいろな見方があることがわかります。1つの答えを覚えるためというより、多様な見方に触れる読み物として、気になったものを手に取ってみてほしいと思います。この本は私も執筆に参加したもので、身近な話題からプラスチックと環境の関わりについて読み解いています」












