世界の”アート”になった日本の漫画 言葉を磨き、個性を見抜く漫画編集者①
研究やビジネスの最前線を走る“現代の偉人”を講師に迎える「トップリーダーと学ぶワークショップ」。今回は『週刊少年ジャンプ』で伝説の漫画編集者と呼ばれ、2000年に集英社から独立して、漫画の編集・漫画雑誌の出版を目的としたコアミックスを設立した堀江信彦先生をお招きした。「漫画の未来と可能性」をテーマに、漫画創作における編集者の役割と言葉の大切さについて講演いただいた。
日本の漫画、世界で消費を巻き起こす
皆さんのように若い人たちが漫画を読む、これは日本ではごく当たり前の風景です。では日本以外の世界で、漫画がどのように受け止められているか知っていますか。
海外での漫画の売れ行きは、雑誌から電子書籍の時代になって一変しました。週刊誌なら翻訳し印刷して、配本して書店で売ってもらわなければ、日本以外の読者には届きません。ところが電子書籍なら翻訳するだけで、世界中の人に読んでもらえます。実際、電子書籍の約8割は漫画です。
しかも日本では単なる「漫画」ですが、海外では「アート」として受け止められています。おかげで漫画のキャラクターを使ったビジネスが、実はとてつもない市場規模になっているのです。
例えば私が編集を手がけた『北斗の拳』、海外で『First of The North Start』として知られていますが(資料1)、この漫画に登場するキャラクターを使った商品が世界中で数多く販売されています。その結果、コンテンツのライセンス料や許諾案件の総収益がいくらぐらいになるか。1ドル130円で計算すれば、ざっと3兆円です。世界メディアミックス総収益の1位は日本のポケットモンスターで、10兆円以上の収益があります(資料2)。これは国家予算に近い額であり、世界でいかに高く評価されているかがわかるでしょう。その国では高い価値を認められていないものが、ほかの国では宝物扱いされる。同じような事例は9世紀の渤海国でも起こっていました。この国はシルクロードの最終地点であり、ここでガラス製品と金の交換が行われていたのです。ガラスと金では値打ちが釣り合わない、と考えるのは現代人だから。ガラスを運んできたアラブの人たちにとっては金がなにより貴重なものであり、逆に国内で豊富も採れた金を持って渤海国まで出かけていった日本人にとっては、ガラスがこの上なく貴重、だから取引が成立した。漫画の取引が成立した。
漫画のキャラクターも同じです。日本国内ではそれほど高い価値を認められていなくても、世界の人たちは漫画のキャラクターをとても高く評価しているのです。
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