未来の日本を救う科学世界の研究リーダーをめざせ②
「トップリーダーと学ぶワークショップ」
ワシントン大学医学部教授
今井眞一郎先生
老化と寿命 世界初の研究テーマに挑む
では、私はどのように研究をリードしてきたのか。私は1987年から「老化と寿命のメカニズム」をテーマとして研究に取り組んできました。なぜ人は老化するのか、どのようなメカニズムで寿命は決められているのか。この問いの答えを出せれば、人類に大きなインパクトを与えられる、まさにビッグピクチャーです。とはいえ36年前に、こんなテーマの研究方法をわかっている人は、世界中に一人もいませんでした。
そんな状況でまず私は、基本的な三つの疑問を設定しました(資料2)。第一は、老化・寿命をコントロールするセンターのような臓器や組織は存在するのか。第二は、仮にコントロールセンターがあるなら、それはほかの臓器や組織とどのように連絡を取っているのか。第三は、どのようなシグナルや因子が、老化・寿命の制御に関わり臓器や組織と連絡を果たしているのか。この三つの疑問の解明に取り組みました。
研究を進めた結果、2009年に発表した概念が「NADワールド1.0」です。これは重要な3つのものを結びつける全身のシステムです。具体的には「NAD」と呼ばれる物質の代謝メカニズム、およそ24時間周期の体内リズムである「サーカディアンリズム」、そして「老化と寿命の制御」の3つです。これらを結び合わせる働きを持つ全身性のネットワーク、これがNADワールドです。
NADワールドにおいて、重要な役割を果たしている酵素が2つあります。代謝をコントロールする酵素「サーチュイン」とNADをつくるために必要な酵素「NAMPT」です。サーチュインは代謝をコントロールするうえでとても大事な働きをしていて、その働きにはNADが必要です。そのNADを体内でつくるのがNAMPTですから、NADワールドではサーチュインとNAMPTが車の両輪のようにお互いに協調的に働いて、システムをコントロールしているのです。