就職からみた大学選び① 日本の大学院制度
⑴大学院の課程
日本には国公私立を合わせて、661校の大学院がある(2023年度『学校基本調査(速報値)』)。大学院とは、専門職や研究職を目指す大学(学部)卒業者を対象に、より高度な教育・研究を行う機関である。学部の上位機関として、大学院には「研究科」が設置されている。
大学院は大きく分けて「修士課程」「博士課程」「専門職学位課程」の3つに分類される。文部科学省が定める大学院設置基準及び専門職大学院設置基準によると、それぞれの目的は表1のように定められている。
入学資格は原則として、修士課程と専門職学位課程が学部卒業者、博士課程(博士後期課程)が修士課程または専門職学位課程修了者である。ただし、修士課程については学部卒業相当、博士課程については修士課程修了相当の学力を有すると大学院が判断した場合は、それらの学位を持たなくても入学資格が認められる場合がある。
標準修業年限は修士課程と専門職学位課程が2年(修士課程を1年間で修了できるコースが設定されている大学院もある)、博士課程(博士後期課程)が3年だが、入学前の学歴によって異なる場合がある。例えば、専門職大学院である法科大学院では、法学部卒業者など、法学既修者向けの2年課程と法学未修者向けの3年課程に分かれる。また、6年制の医学部、歯学部、薬学部、獣医学部を卒業した者を対象とした博士課程は4年制となっている。
⑵ 設置形態と名称
①修士課程(博士前期課程)
博士課程も併設する研究科の場合、「博士前期課程」の呼称を用いることもある。標準修業年限は2年。修了後は、「修士号」(Master’s Degree)が授与される。修了認定の際は、所定の単位を取得し、修士論文審査と口頭試験に合格することが必要とされる(研究成果のみで審査をする修士課程もある)。修士号取得者の多くが、一般企業への就職を目指す。理系出身者の就職先として、人気の高い研究職や開発職の応募条件として、修士号取得が求められている場合が少なくない。また、公認心理師や臨床心理士、教員免許状(専修)などの資格取得を目指す場合も修士号取得が条件となっている。また必須条件ではないものの、国家資格や民間資格を取得する際に、修士号取得が有利となる場合もある。
②博士課程(博士後期課程)
「修士課程(博士前期課程)」の上位教育機関として設置され「博士後期課程」 「後期3年博士課程」の呼称を用いる大学院が多い。標準修業年限は3年で、修了後は「博士号」(Doctor)が授与される。欧米圏の呼称「Ph.D.(Doctor of Philosophy)」を通称として用いる場合もある。所定の課程を修了した者に授与される「課程博士」と、在学経験がないまま学位審査に合格した者に授与される「論文博士」がある。また、在学期間を満了しながら論文審査に合格せずに「単位取得退学」した場合でも、研究業績の内容によっては一定の評価を得られることもある(現在では、研究機関に職を得る時の応募条件として、博士の取得が条件となることが多い)。
◇一貫制博士課程
修士課程(2年間)・博士課程(3年間)の区別を設けることなく、5年間の一貫教育を行う課程である。5年間通して計画的・継続的な研究に取り組めることが、利点として挙げられる。高い専門性が求められる理系分野を中心に、近年は修士課程+博士課程(または博士前期課程+博士後期課程)から一貫制博士課程に移行したり、新たに一貫制博士課程を設置したりする大学がある。
◇4年制博士課程
主に、医学部、歯学部、薬学部(6年制)、獣医学部を卒業し、各分野において教員や研究者を目指す者を対象に、高度な専門教育を行う課程である。一貫制博士課程と同様、計画的・継続的に専門性の高い研究に取り組めることが特徴である。なお、一般的な大学の学部は4年制だが、医学部、歯学部、薬学部、獣医学部は6年制である。卒業してそれぞれの大学院へ進む場合、すぐに4年制の博士課程に在籍することになる。医学部、歯学部、薬学部、獣医学部以外の学部卒業生が医学、歯学、薬学、獣医学の大学院に進む場合は、4年制の博士課程ではなく、2年制の修士課程に在籍することになる。
③専門職学位課程
専門職大学院に設けられ、専門性が求められる職業において必要とされる知識や能力を育成する課程である。代表的なものとして、法科大学院や教職大学院がある。経営管理修士・経営学修士(MBA)なども専門職学位課程に含まれる。
⑶大学院数
表2は1989年以降の大学院数と大学院在籍者数(修士・博士・専門職)の推移である。大学院数についてみてみると、1989年には国公私立あわせて303校だったが、その後1990年代以降に新設が相次ぎ、増加の一途をたどった。
2023年は、1989年当時の2倍を上回る661校の大学院が設置されている。日本にある大学の約8割が大学院を設置していることとなる(※一部、学部を持たず、大学院のみの組織である「大学院大学」もある)。
国公私立別でみると、国立はここ10年以上86校、公立は前年より1校増加し90校、私立は前年より3校増加し485校となっている。
国立大学の大学院はピーク時の2003年には100校あったが、2004年の独立行政法人化に伴う統廃合により国立大学そのものの数が減少し、それとともに大学院数も減少した。公立大学は、もともと大学数自体がそれほど多くなかった。しかし1990年代以降、公立大学の新設や私立大学の公立大学化などにより、大学院数も23校から90校へと急増した。私立大学の場合も、大学数の増加に連動して、大学院数も186校から485校へと大きく増えた。
⑷大学院の重点化
これだけ大学院の数が増えたのには、1990年代から進められてきた「大学院重点化」の影響がある。「大学院重点化」では、それまでの「大学を構成するのは『学部』であり、大学院は学部に付置されるものである」という考え方を改め、「大学院」を大学の教育研究組織の中心的な組織とすること、教員は大学院に所属することなどの方針が定められた。
これにより、他の先進諸国よりも低かった日本の大学院進学率を高め、「科学立国日本」を牽引しうる人材を多く輩出しようという思惑があったのである。
修士・博士・専門職を含む大学院在籍者数は、1989年の85,263人から2011年には272,566人まで増加したが、その後は減少傾向に転じた。そして2015年に249,474人まで減少した後は再び増加傾向となり、2023年は266,011人となっている。大学院数も増えていったが、大学院重点化が落ち着いた2008年頃からは大学院数はそれほど大きくは増えてはいない。
2011年頃まで大学院在籍者数が増加していった背景には、大学院そのものの数が増えたこともあるが、学部卒業時に希望にかなった就職先を見つけることができなかった多くの学生が大学院進学を選んだことも作用している。
2012年以降の大学院在籍者数はやや減少傾向をたどっているが、これは景気が回復の兆しを見せ始め、就職状況が好転してきたことが影響している。2021年以降の増加にはコロナ禍の影響が考えられる。