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大学での学びの内容を知る(理学系)③

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2 理学系の学びの実例②~立教大理学部~

 立教大は、1874年にアメリカ聖公会の宣教師チャニング・ムーア・ウィリアムズ主教が設立した、聖書と英学を教える私塾「立教学校」を基礎として「普遍的なる真理を探求し、私たちの世界、社会、隣人のために」という建学の精神に基づき、リベラルアーツ教育を行っている大学である。立教大理学部では、「サイエンスコミュニケーション」という科目を設け、理系の学生が専門知識を多くの人に伝える力を養うことを目指している。この科目では、次のように1年間を通して実践的な学びを提供している。


・春学期は「書く」ことに焦点を当て、新聞記者や編集者など、実際に科学を伝えるプロである外部講師を招き、科学を伝える立場と技術を学ぶ。

・秋学期は日本大藝術学部の学生と共同で、理学のテーマをできる限り文章を用いず、直感的に伝えられる表現の手法を学ぶ。


 この授業を通して、学生は科学的な情報をわかりやすく表現し、伝えるための理論的な思考法と文章法を習得している。


〈立教大理学部物理学科 山田真也准教授インタビュー〉

  日本標準時2023年9月7日8時42分11秒、X線分光撮像衛星(XRISM/クリズム)はH-IIAロケット47号機(H-IIA・F47)により、種子島宇宙センターから打ち上げられ、2024年3月4日に定常運用が開始された。


 山田真也准教授はこのプロジェクトに深くかかわる研究者の1人だ。


 「私はX線を用いた天体の観測・分析を目的とした宇宙開発関連の研究を主に行っています。X線は光の一種で、物質が一定以上の速さで動くと発生します。X線は可視光線と比べてはるかに大きなエネルギーを持つため、目に見える光の届かないはるか遠くの天体の様子もX線を観測すれば知ることができます。

 ただし、X線は地球の大気に吸収されるため、地球の地表にはほとんど届いていません。そのおかげで人間を含む生物はX線の有害な影響を受けることなく生活できていますが、X線を観測するためには地球を離れて宇宙空間から観測を行う必要があります。

 そのため、私たちはNASAやJAXA、宇宙関連企業や多くの大学と共同で衛星を打ち上げ、その衛星に搭載した、X線マイクロカロリメータという精密なX線測定装置を用いて宇宙空間から天体の観測・分析を行っています。

 X線マイクロカロリメータは、X線を吸収した際に生じるわずかな温度上昇を検出することで、X線のエネルギーを測定します。しかし、この温度上昇は非常に微弱であるため、高精度な測定を実現するには、検出器を極低温に保つ必要があります。現在私の携わっているXRISMプロジェクトに搭載されたX線マイクロカロリメータは、測定器自体を絶対零度(-273.15℃)に近い50ミリケルビン(-273.1℃)まで下げることで、これまで以上に精彩に宇宙の様子をとらえることが可能となり、ターゲットにした天体がどのような元素から構成されているかだけでなく、その天体が私たちの位置に近づいているのか、あるいは遠ざかっているのかというような運動の様子についてもこれまで以上に精密に観測することが可能となりました」


■数々の困難を乗り越えて打ち上げられた XRISM 衛星


 宇宙について新たな発見が期待される研究を行っている山田准教授だが、実際に観測を行うまでには多くの困難があるという。

 「宇宙空間へ衛星を飛ばすと一口に言っても、計画通りに行くことばかりではありません。衛星を積んだ1つのロケットを飛ばすプロジェクトでは、数年から十数年の時間と数百億円の費用をかけてロケットの打ち上げが行われます。その中では部品1つの移動にいたるまで、すべての工程が専門家たちの手で厳重に行われ、万全を期して打ち上げに臨んでいます。

 私たちはX線マイクロカロリメータを用いた分析を行うだけでなく、より良い観測を行うことができるようX線マイクロカロリメータの開発を行い、それが宇宙空間で正常に観測を行い続けるよう、企業と協力して機器製作や実験、運用テストを繰り返し、打ち上げ本番に至るまで調整を行っています。また、1つの打ち上げロケットにはいくつものプロジェクトが相乗りしているため、使用するスペースや電力は融通し合う必要があります。関係各所との調整も大切になりますし、制約のある中で最大限の性能を引き出す必要があります。ロケットに搭載される観測装置の製作には特殊な資格が必要であり、また素材も宇宙空間に耐える特殊なものが必要となるため、実際に宇宙へ行く観測装置は厳重な管理の下で企業により作成されます。私たちはその前段階で、地上にある実験施設などでより性能の高い観測装置の開発を行い、本番仕様の観測装置の仕様書を作成してその通りに製作が行われているか、組み立てられる中でそれぞれの部品が正常に動作しているかといった確認などを行っています。

 ロケットが実際に打ち上げられるまでには数えきれないほどの試験が行われ、そのすべてをクリアしてようやく打ち上げとなります。それでもすべての打ち上げが成功するわけではなく、また打ち上げ自体が成功しても宇宙空間で衛星に不具合が起こり、プロジェクトがとん挫することもあります。私は学生時代から20年近くこの研究に携わり、大規模なプロジェクトも経験してきましたが、打ち上げに失敗したことやカロリメータが上手く動作しないこともありました。XRISMの前に携わっていたX線天文衛星「ASTRO-H(ひとみ)」も、XRISM衛星と同様の方式でX線マイクロカロリメータを冷却する方式を採用し2016年に打ち上げられました。このASTRO-Hは、打ち上げ後約1カ月で姿勢制御に問題が発生し、観測が継続できなくなったため、プロジェクトの中断を余儀なくされました。

 XRISMはASTRO-Hの技術を継承し、信頼性を向上させた後継機として開発されました。XRISM衛星を搭載したロケットは昨年2023年9月に種子島宇宙センターで打ち上げが行われ、無事に打ち上げが成功し現在は本格運用が始まりました。このXRISMプロジェクトではASTRO-Hと同様に、液体ヘリウムを「ロケット打ち上げ場まで運びその場で装填して発射するという」日本ではASTRO-Hで初めて行われた方式が採用されたため、打ち上げ予定日の1カ月前から種子島に行き、最後の最後まで調整やシミュレーションに追われていました。

 無事打ち上げに成功した後も、衛星は宇宙空間では常に大量の宇宙線にさらされ続けているため、必ずどこかに異常が発生したり故障したりします。そういった場合に、なるべく早期に異常を検知し食い止めるための対策を講じることで、衛星がなるべく長期間活躍できるよう、衛星の維持管理を行うことも大切な研究の一部です」

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