全国統一高校生テスト

大学での学びの内容を知る(映像メディア系)②

大学での学びの内容を知る(映像メディア系)②
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■映像分析で環境問題にアプローチ

「最近研究しているのは環境問題と映像の関係です。東日本大震災以降、震災と震災後の状況に関する映像作品がたくさん作られましたが、それらは広い意味での環境問題とも密接につながっていることに気づき、以来、映像を通じて環境問題を考えることに取り組んでいます。核エネルギーとグローバルな産業としての原発の側面や、事故後のコミュニティや家族の問題に加えて、動物や障がい者、外国人などマイノリティへの影響も取り上げています。また、動物の環境問題に対する役割や記憶の問題、再生エネルギーとの関係についても幅広く考察しています。映像が東日本大震災の状況を全部捉えているとはいえませんが、普通に考えても気がつかないこともいろいろな作品がいろいろな方法で捉えているので、映像に注目することで、他の分野の研究にはないような独自の視点から、この問題の広がりと深さを考察し、その見解を読者の人たちと共有できると考えています。例えばどういう角度からどういうふうに捉えていて、そこにはどういう問題があるのか、そこにはどのような偏向があったり、足りないことがあるのか、逆にどういう意義があるのかということを考察しています。また、現代社会は映像で溢れており、それが社会にとってどのような意味を持つのか、その探求も含めて考えていきたいと思っています。

 最近の重要な研究の一環として、単一のメディアとして映画を捉えるのではなく、トランスメディアやメディアミックスといった概念が重要視されています。昨年執筆した論文では、エネルギーに関する議論を扱いました。具体的には、二つの映画を取り上げましたが、一つはYouTubeで簡単にアクセスできる『ガイアのメッセージ』です。『ガイアのメッセージ』では、ジェームズ・ラブロックによるガイア理論が中心に据えられており、地球環境の保護が重要視されています。この理論は1960年代後半から広がりを見せており、特にアポロ宇宙船が地球を青い惑星として捉えた写真と結び付けられて広く知られるようになりました。『ガイアのメッセージ』は、化石燃料に依存することを地球温暖化を進行させる一因として挙げており、原発の利用推進を主張しています。これに対し、『おだやかな革命』というドキュメンタリーは、再生可能エネルギーの活用と地域コミュニティの活性化を重視し、異なる視点から環境問題にアプローチしています。『おだやかな革命』は、日本国内のいくつかの小さな村での再生可能エネルギーを使ってコミュニティを活性化した成功事例を紹介しています。これらの映画は、映像の構成や論理構造、そして視聴者への環境問題の提示の仕方において大きく異なっています。『ガイアのメッセージ』は、科学者や社会的権威のコメントに基づいて環境問題を描いている点に大きな特徴があり、そうした映画のロジックやレトリックにより、原発の必要性を強調しています。これは、原発推進の状況が強まっている、現在の社会の主流意見を正当化しているともいえるでしょう。知識人の意見によって原発推進の必要性を訴えたり、美しい地球の映像を強調して見せたりすることによって肯定的な印象を与えています。これに対して、『おだやかな革命』はトップダウンではなく、地域コミュニティを重視し、地球環境保護はあくまでその上に成り立つものであることを示しています。再生エネルギーを通じて地域コミュニティが活性化する様子を示し、地球環境の保全に貢献する可能性を示唆しています。この映画は下からの声を重視し、『ガイアのメッセージ』とは異なるロジックやレトリックを用いています。これらの作品は同じエネルギーや環境問題に関連していますが、そのアプローチや伝え方には大きな違いがあるので、私たちの想像力に対する映像メディアの影響力を考える上で、それぞれの映像の特徴を綿密に分析することが重要です。環境問題というのは、どうしても上からのロジックや抽象的な議論になりがちです。一方、映像というのは具体的に視覚的・聴覚的に見せるものなのでわかりやすく、その点で社会的に影響力があります。その反面、わかりやすいからこそ、普段何気なくみていては気づかない問題もたくさんありますし、また映像には多様な観点からのさまざまな表現があります。そういうところを分析して、映像の観点から社会や環境の問題を考えていくのが映像学の研究者の一つの大きな役割だと思っています。

 このほか、イギリスの研究者と一緒に、『THE JAPANESE CINEMA BOOK』というタイトルで、日本映画を多様な角度から研究している論文を集めた共編著書を出版しています」

THE JAPANESE CINEMA BOOK


■映像学のルーツから分析手法の確立まで

「映像学や映像研究は、アメリカを中心にして1970年代から急速に発展してきた分野です。いまでは、『フィルム・スタディーズ』『シネマ・スタディーズ』『スクリーン・スタディーズ』といった呼称で、映画や映像の理論や分析方法が体系化され、世界の多くの大学で学科や専門が設立されています。近年ではさまざまなアプローチが存在し、映像の研究が盛んに行われています。映画や映像作品の理論や分析方法の基礎を体系的に学ぶ上では、『フィルム・アート 映画芸術入門』という教科書が世界的に広く使用されています。初版は1979年に出版され、その後多くの版が重ねられています。日本語版は私が他の研究者たちと共同で翻訳したものです。映像作品には、視覚的な側面と聴覚的な側面があり、それぞれにかかわる要素がどのように連関しているかを分析することが重要です。視覚的な側面では編集や撮影法(カメラのフォーカスや被写体との距離、フレーム内の配置など)にかかわる多くの要素が作品の表現に影響を与えます。加えて、音楽やノイズといった聴覚的要素や、物語のテーマや構造も重要です。これらの要素をどう組み合わせるかによって、作品の描写や効果が異なってきます。例えば、地球の美しさを強調することで、原発の推進があたかも素晴らしいことのように見せることが可能になります。映像学では、これまではこうしたテクスト・分析と呼ばれる人文学の分析手法が主流でしたが、今後はAIの進化によりデータサイエンス的なアプローチも取り入れる動きも出てくるかもしれません」


■アニメから国際映画祭まで多彩な「映像学」の研究

「研究テーマとしては、名古屋大には、在日コリアンの表象や映像アーカイブに関する研究に取り組んでいる先生がいますし、アジアのインディペンデント自主映画や映画祭に関する研究をしている先生がいます。そうした先生たちは、日本映画だけでなく、中国、香港、韓国、マレーシア、そして沖縄など広範囲にわたる地域の映画に焦点を当て、とくに少数民族やマイノリティの表象を重視しながら研究しています。大学院生が取り組んでいる研究としては、日本映画における死の表象、アクション映画におけるジェンダーやエスニシティ、映画産業と予告編、アイドルの映像表現と文化的意味、K-ポップの映像表現、クィア映画、日本映画における風景、映画における都市表象と文化政策など多様ですが、アニメーションの研究はとくに人気で、例えば、ジブリパークによる宮崎駿作品の再メディア化の問題や、ドラえもんのような日本のアニメ作品の中国における流通・受容の問題に取り組んでいる学生たちがいます。私自身も、アニメに関する理論的な書籍を翻訳したことがあります」

フィルム・アートアニメ・マシーン

■映像学が学べる大学~高校生へのメッセージ

「名古屋大の映像学分野・専門は大学院のみで、学部の文学部で映像学を専門的に学べる学科やコースはありません。学部でも映像学の授業は担当していますが、これまでは、大学院の映像学分野・専門を志望する学生は、名古屋大文学部の学生よりも、他大学(たとえば、大阪大、東北大、同志社大など)出身で映像に興味を持って入ってきている学生が多いです。留学生も多く、現在在籍している学生は、中国、韓国、フィンランド、バングラディッシュなどの出身です。授業は、日本語または英語、あるいは両言語を自由に使用して進める場合もあります。また、イギリスのウォリック大学と共同で運営している博士学位プログラムもあります。大学院修了後の進路としては、博士後期課程まで進学して研究者を目指す学生もいますが、美術館のプログラム・コーディネータとして職を得た学生もいます。修士課程を終えた学生では、映像に関係ない分野に就職する人が多いですが、近年では、映像コンテンツや映像制作の技術サービス、映像システムを扱う企業に就職した学生もいます。

 日本国内では映像学を専門的に学べる大学は多くはないですが、少しずつ増えています。東京大では情報学の中で映像を扱う先生や、表象文化の一つとして映像に取り組んでいる先生がいます。京都大では「映像」という言葉を使っていないのですが、映像の研究に取り組んでいる先生がいます。私立大学では早稲田大文学部の「演劇映像コース」や日本大芸術学部があり、どちらも歴史があり専門的に学ぶことができます。またこれらの大学や名古屋大では制作よりも理論や歴史の研究を中心に学ぶことになりますが、立命館大、東京藝術大、大阪芸術大、日本大芸術学部などでは、映像制作を中心に学ぶこともできます。それぞれの大学にはそれぞれの特徴があり、名古屋大の映像学は、国際的であることと、東アジアに力点をおいていること、そして社会や文化に関する広い視点から映像を捉えていることに大きな特徴があります。映像学に興味がある、大学で映像学を学んでみたい、という高校生の皆さんであれば、幅広くいろんなジャンルの映画をたくさん観ておくことをお勧めします。また、映画だけでなく、文化・芸術や社会問題に関わるあらゆることに常日頃から関心をもって幅広く本を読み思考することも大切です。映像研究の一つの醍醐味は、他の多くの専門分野と違って、映像を通じて多様な分野を跨ぐような問題を考えるところにあります」

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