全国統一高校生テスト 全国統一高校生テスト 全国統一高校生テスト

大学での学びの内容を知る(医用工学系)④

大学での学びの内容を知る(医用工学系)④
大学での学びの内容を知る(医用工学系)④

本記事は大学での学びの内容を知る(医用工学系)③の続きの記事です。こちらも併せてご覧ください


■非侵襲生体センシング・イメージング

「また、身体への負担が少ない検査を目指し、光を用いた非侵襲生体センシング・イメージングの研究にも取り組んでいます。『非侵襲』とは、身体に傷をつけたり器具を挿入したりといった、身体に負担のかかる手段を用いない検査方法を指します。その中の一種として、体外から光を照射し、その反射光や透過光を分析することで、体内のさまざまな情報を得るという手法があります。例えば、コロナ禍に話題となったことでご存じの方も多いパルスオキシメーターという装置は、指にはめることで赤色光と赤外光の2種類の波長を用いて血中の酸素飽和度を測ることができます。

私の研究では、より多くの波長を用いることで、測定の精度を向上させるだけでなく、CO 2濃度や深部体温、血中アルコール濃度など、より多くの生体情報を取得することを目指しています。これらの計測対象はパルスオキシメーターよりも長い波長の光を用いる必要があります。反射光や透過光を回折格子で分光することで測定精度を向上させ、さまざまな物質を測定することができますが、分光器は大型で高価です。私の研究では、ナノメータやマイクロメータのものづくり技術を用いて、波長の長い光を分光可能な安価で超小型なセンサの実現を目指しています。より安価で小型に実現することができれば、一つのウェアラブル機器でさまざまな計測を手軽に行うことも可能となるかもしれません」


■内視鏡・カテーテル・鉗子など医療機器の高度化

「さらに、内視鏡やカテーテルなどの医療機器の高度化も重要なテーマとして取り組んでいます。現状の内視鏡検査では、消化管表面の腫瘍の状態は把握できますが、がんのリンパ管や血管への転移については、明確な診断が難しいです。そこで、リンパ管や血管内のがん細胞を検出できるセンサを内視鏡に搭載することで、体内におけるがんの進行度合いをより正確に診断できるようになると考えています。

具体的には、内視鏡の先端に微小な光学センサを搭載し、組織の深部まで光を照射して分析することで、がん細胞の存在を高感度に検出する技術の開発を進めています。この技術が実現すれば、内視鏡検査の段階で、がんの転移リスクをより正確に評価できるようになり、治療方針の決定に大きく貢献すると期待しています。

また、カテーテルや鉗子などの医療機器にも、微小なセンサを搭載する研究を行っています。例えば、カテーテルの先端に圧力を測るセンサを搭載することで、血管内の状態をより詳細に把握したり、手術時の繊細な操作をサポートしたりすることが可能になります。

このように、より小型で高性能なセンサを開発・実装することで、多くの人がより手軽に詳しく検査ができる環境を作ることを目指しています」


■研究室での学生の学び

来年2025年度に開設される医療創成工学科に先だって、大学院の医療創成工学専攻では2023年度より学生の受け入れが始まっている。菅野教授の研究室ではどのような指導が行われているのだろうか。

「私の研究室では、実際に医療機器を開発するプロセスを通じて学びを深めています。神戸大の医学部・大学院医学研究科は附属病院がすぐ隣に位置しているので、実際に現場で活躍する医師や医療従事者と緊密にやり取りをすることができます。

どのような研究に取り組むのかを考え、医師のもとへ提案に行きフィードバックをもらう中で、臨床の現場で本当に必要とされている機器とはどのようなものなのか、ということを、身をもって学んでいます。

大学院医療創成工学専攻には、神戸大の工学部など、学部で機械工学を学んだ方も在籍していますが、それだけでなく学部では応用化学や保健学を学んできた方、臨床工学技士として実際に医療現場で働く中で新しい医療機器を作りたいという思いで入学した方など、さまざまな背景を持つ方が集まっています。そのため授業などでのディスカッションを通じて、幅広い分野の視点に触れることのできる場となっています。

新設される医療創成工学科では、医療機器を題材として、学部の時点から医療機器を作るために必要な知識やものの考え方を獲得したり、医療現場での実習を通して医療現場で必要となる医療機器はどのようなものなのかを考える訓練をしたりすることになります。これから入学する皆さんにはそういった学びを得た上で大学院に進学し、より深い専門知識と実践的なスキルを身につけていただき、医療機器開発をはじめとしたさまざまな分野で活躍してもらいたいです」


■医療創成工学科を目指す高校生へのメッセージ

「高校生の皆さんに特に伝えたいのは、批判的思考の習慣を身につけることの大切さです。新しいものを作り出すためには、論理的に考え、批判的に物事を見る習慣が非常に重要です。具体的には、先生から教わったことや本で読んだことを、そのまま鵜呑みにせずに、『本当にそうなのか』『なぜそうなのか』と常に考える習慣をつけてほしいと思います。研究を始めると、このような思考習慣がないと新しいものを生み出すのが難しくなります。ですので、高校生のうちから考える習慣を意識的に身につけておくことをお勧めします。

また、幅広い分野に目を向け、興味のあるものを探求することも重要です。私自身の経験を振り返ると、高校生の頃は機械工学と化学の両方に興味がありました。車やバイクが好きで機械を作るエンジニアになりたいという思いがある一方で、化学にも興味があり、どちらの道に進むべきか悩んでいました。結果的に、機械工学を専攻しながらも、バイオやメディカル分野にも興味を持ち続ける中で、現在の医療機器開発という、両方の要素を含む現在の道にたどり着いていました。医療機器開発は、工学、医学、生物学など、さまざまな分野の知識が必要です。高校生のうちから興味のある分野を広げていくことが、将来創造的な研究を行う際に役立つはずです。

一方で、工学が好きでものづくりに興味がある皆さんにも、ぜひ医療機器開発という選択肢を検討してもらいたいです。この分野は単に医療機器を開発するだけでなく、製品化までの複雑なプロセスも学ぶことができます。医療機器は一般の工業製品よりも開発や製品化のハードルが高く、安全性の確保や臨床試験、各種認可など、考慮すべき要素がたくさんあります。これらをクリアするために試行錯誤をした経験は、将来どのような分野に進んでも必ず役立つはずです。医療機器開発を通じて学んだ知識やスキルは、一般の工業製品開発にも十分に活かせるものだと考えています。

医師は一人の患者さんと向き合い、直接的に命を救います。一方、私たちは開発する医療機器を通じて、間接的に多くの患者さんの命を救う可能性があります。一つの優れた医療機器が治療可能な段階で病気を発見することができれば、それを通じて数えきれない数の人々を救うことができるのです。皆さんと一緒に、未来の医療を作り上げていけることを楽しみにしています」


新課程入試について 全国 学校のお天気 大学案内 大学入試偏差値ランキング 過去問データベース 入試日程カレンダー 大学入試科目検索システム
    東進ドットコム > 大学での学びの内容を知る(医用工学系)④ TOSHIN TIMES > 大学での学びの内容を知る(医用工学系)④
LINE twitter Instagram Facebook