社会を変えるデータサイエンス 第九回名城大学②
現在、第4次AIブームと言われており、皆さんの中にもChatGPTを使ったことがある方も多いでしょう。生成AIの登場により、医療の分野でもできることが大きく広がりました。例えば、文章を生成できる大規模自然言語モデル(LLM)により、これまで診断後に医師が作成してきた診断レポートを、自動的に作る研究が多数進められています。なかでも、私の研究室ではレントゲン画像などを生成AIに取り込むことで、画像から分かることをまとめた「画像所見」を自動的に生成する技術の実用化を目指しています。このようにAIを活用して診断レポートを作成したり、医療画像から病変部を見つけ出したりする技術は、あくまで医師をサポートするものであり、最終的に判断するのは医師です。それでも、AI技術の導入により業務時間を短縮できれば、その分を新たな研究や患者さんと向き合う時間に充てられます。医師の診断をサポートでき、患者さんの役に立てることが、私たちの大きなやりがいです。現在、実用化されている診断支援技術には、胃がんを自動検出する技術があります。内視鏡検査では医師は内視鏡を操作しながら、その場で病変がないかをチェックしているため、見落としが起こる可能性があります。当研究室では「自動運転」の技術を使い、病変と思われる部分があるとアラートで知らせてくれる仕組みを開発しています。さらに、検査後には診断レポートが自動生成されることを目指しています。
どんなデータをどう処理すれば社会に役立てるのか
情報工学を目指す学生の中には、プログラミングに興味がある人も多いと思いますが、コードを書けるだけではあまり意味がありません。大切なのは、それを応用して実際の社会で役立つものを、どう作り上げるかという点です。当研究室の場合は、医師や患者さんの診断や治療に役立つものを、常に意識しています。そこで、私が以前教鞭をとっていた藤田医科大学に学生たちと訪れ、手術や検査の現場を見学させてもらったり、医師から直接ニーズを聞いたうえで、研究テーマを決めることもあります。実際に現場を知ることは、研究のモチベーションにつながりますし、一つの課題に取り組み、解決していくプロセスを経験することは、実社会に出てからも必ず役立つはずです。
時系列データをAIで解析し、病気を未然に防ぐ
AIを使った研究で次に注目されるのは、時系列解析です。例えば、スマートウォッチで常に計測している心拍数などのデータや、病院の検査で把握できるさまざまなデータを蓄積します。そして、時間の経過とともに見られる変化をAIで解析することで、糖尿病になる危険性が高いなど、未病の段階から病気に対処できるようになるでしょう。これにより国の医療費が抑えられ、人々のQOL(生活の質)も上がる未来が実現できるはずです。医療にも興味があり、情報工学をメインに将来のキャリアを築いていきたい高校生、医療機器の開発に興味がある高校生は、ぜひ当研究室の扉を開けてみてください。