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サイエンスセミナ実施レポート②~金属錯体を駆使してまだこの世にない新物質を創る~

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自然界に存在しなかった物質超原子[Al 13]の液相合成を開拓

 Al13なんて、たぶん初めて見るのではないでしょうか。とはいえけっしてタイポ(誤植)などではなく「超原子」、複数の原子を立体的に組み上げたもの(クラスターと呼びます)です。Al13とはアルミニウム原子を13個集積させた超原子、その合成に成功しました。以前から正二十面体構造となるAl13の存在そのものは、理論計算により予想されていたし、気相では極微量の合成も実現されていました。

 これに対してデンドリマーと呼ばれる鋳型のような高分子を使い、世界で初めて液相での合成に成功し『NatureCommunications』誌に掲載されました。鋳型といってもそのサイズはわずか1nm(100万分の1ミリメートル)程度のカプセルです。これを使って13個のアルミニウム原子を組み上げる。溶液中で合成するこの手法なら、超原子を一度に多く作れるのです。その際にポイントとなるのが、合成される原子数を必ず13個とすること、これが12個や14個では超原子とはなりません。

 アルミニウムは第13族ですが、超原子Al13は周期表の第17族に属するフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)などのハロゲンに似た特徴を示します。一方でアルミニウム原子が集まって形成される結晶と超原子では、性質がまったく異なります。超原子には、たとえばレアメタルに取って代わる新たな材料となる可能性が秘められています。またアルミニウムと同じ第13族の元素ガリウム(Ga)からなる超原子Ga13の合成にも成功しています。

 次に取り組んだ新しい材料開発が、ホウ素(B)を使った二次元構造体です。ホウ素からなる厚さ0.6㎚のシートを作成し、世界初の成果となりました。


失敗は未知との出会い

 ホウ素もアルミニウムと同じ第13族の元素です。アルミニウムについては、そのクラスター特性を研究してきました。ホウ素についても当初は、同じようなクラスターの合成に取り組んでいたのです。そこで試行錯誤を繰り返しているあるとき、予想もしない出来事が起こり、条件を変えていろいろ試しているうちに気づくと、ホウ素が単原子層のシート状に並んでいたのです。

  これはすごいものができたと喜んだものの、どんなおもしろい機能が出せるかと悩んでいました。そんなとき、当時の修士の学生が偶然この物質を加熱すると液晶に変化することを発見しました。これは全く予想していなかった現象でして、こうした新たな発見が次の研究へと誘ってくれます。ホウ素という無機元素でできた二次元物質からなる液晶は殆ど知られておらず、新たな機能を開拓していくことを次の研究テーマとしています。

 このように化学とは、まだ「わからないことだらけ」の世界です。だからおもしろくて、研究をやめられない。もちろんスタートは理論的な考察から始めることも多くあります。考えてある程度当たりをつけてから実験して手を動かしていると、当初の想定とはまったく違う結果が出てくる場合がある。

  そんなときこそ実はチャンスで、「実験を失敗した」と切り捨てるのではなく「これは何が起こったんだろう」といったん立ち止まって考えてみます。その時点で意味のわからない現象には、未知の何かと出会った可能性が秘められている。想定していた理論の外側に位置するような現象こそが、新たな発見につながると考えています。また、うまくいかないときには周りの人を頼ってみることも大切です。自分とは違う考えを持つメンバーからのアドバイスはとても重要で、思いがけない研究に発展したりすることがとてもおもしろいと感じています。

  仮に新しい物質を初めて創り出せたとすれば、その第一発見者として化学の歴史に自分の名前を残せます。しかも、新しい物質にはさまざまな可能性が広がっている。

  例えば単層のホウ素シートには、理論計算により超伝導になる可能性があると報告されています。もしグラフェンを超えるような機能が発見されれば、現代のナノテクノロジーを大きく変化させるような可能性も出てきます。 

 新しく研究を始めるときはいつでも、うまくいけば我々の社会や研究を大きく変革するようなテーマを追究したいと考えています。それぐらい発展性があるからこそおもしろいし、やりがいも出てくる。研究とは未知を明らかにする挑戦です。だからいつも何か新しい大きな価値を生み出してやるんだと、そんな気概を持って日々取り組んでいます。

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