〈京都大 大学院エネルギー科学研究科 川西咲子准教授インタビュー〉
本記事は〈早稲田大創造理工学部 中垣隆雄教授インタビュー②〉の続きの記事です。そちらも併せてご覧ください。
〈京都大 大学院エネルギー科学研究科 川西咲子准教授インタビュー〉
「私が所属しているエネルギー科学研究科は、エネルギーや環境問題を工学、理学、農学、経済学、法学などの多角的な学問領域からのアプローチで解決するために設立された組織です。エネルギーの有効利用に関する研究に対して、私は材料の視点から工学的なアプローチで取り組んでいます。具体的には、高温物理化学という熱力学や速度論を基礎とする学問を利用し、先端技術の研究・開発の現場で不可欠なより高品質な素材の作製を目的として、高温下で行われるあらゆる現象を扱っています。
私が研究対象としている材料の1つは、シリコンカーバイドというパワー半導体材料です。現在世界中で大量のエネルギーが消費されていますが、その消費量のうち無視できない量が熱エネルギーとして失われており、有効に活用できていない部分が相当あります。この問題に対して、現在使われているシリコンの半導体からシリコンカーバイドの半導体に置き換えることによって、エネルギーロスを大幅に削減することができるため、日本のみならず世界中でこの取り組みが進められています。エネルギーは基本的に仕事か熱に変換されますが、できる限り多くを仕事として取り出すことが理想的です。一部はどうしても熱として失われてしまいますが、シリコンカーバイドなどのパワー半導体では、熱エネルギーとして失われる部分を大幅に削減することができます。エネルギーロスをシリコンと比較して数百分の1にまで削減することが可能です。たとえば、シリコンの場合、材料に通電する際にかなりの抵抗が発生するため、パソコンやスマートフォンのACアダプターが使用中に熱くなるように、本来の目的とは異なる発熱のためにエネルギーを消費してしまいます。パワー半導体を使用することで、このような損失を圧倒的に少なくすることができ、エネルギーを無駄なく有効利用することができます。

私の研究は、このようなパワー半導体の材料となるシリコンカーバイドについて、いかに高品質な結晶を作ることができるかということに焦点を当てています。既存のシリコン半導体の場合、大気圧下で液体状態のシリコンを冷却させるだけでシリコンの固体が形成されるため、比較的製造が容易です。しかし、シリコンカーバイドの場合は状況が異なります。大気圧下ではシリコンカーバイドの組成のままで液体状態にすることができないのです。シリコンカーバイドはシリコンとカーボンが1対1で構成される材料ですが、この1対1の状態は大気圧下においては分解してしまう性質があるため、液体状態を作ることができないのです。そのため、シリコン半導体と同じ手法で製造することはできません。
シリコンカーバイドの製造についてはさまざまな方法が存在しており、現在市販されているシリコンカーバイドの結晶は気相成長法で製造されています。これはシリコンカーバイドの粉末を減圧下で2,000℃以上の高温に加熱し、気体状態にしたものを低温側に堆積させる方法です。この方法では高品質な結晶の製造に限界があるため、より品質を高めるため現在研究開発が進められているのが溶液成長法です。
私が取り組んでいる溶液成長法は、原理的には食塩水から塩の結晶を作るのと同じです。シリコンに金属元素を添加した液体を作り、そこにカーボンを溶解させます。すると、飽和溶解度を超えたシリコンカーバイドの結晶を析出させることができます。この方法の大きな利点は、結晶が液相から固体として結晶化する界面が熱平衡に近い状態にあることです。物理科学の法則に従えば、原理的に高品質な結晶が形成されるはずなのです。しかし実際には、結晶成長界面を適切に制御し、高品質な結晶を作り出すことは非常に困難です。そこで私は、成長界面で何が起きているのかを詳しく観察し、高温で起きている現象を解明することを目指しています。
具体的な結晶成長のプロセスは次のとおりです。まず、種結晶のシリコンカーバイド基板の下に、シリコンとクロムなどの合金を配置します。さらにその下にグラファイトなどのカーボン原料を設置します。装置に温度勾配をつけ、原料側を高温に、基板側を低温に設定すると、高温側で原料が溶解し、合金中のカーボン濃度の差によって自然にカーボンが低温側へ輸送されます。そして低温側で過飽和状態となったシリコンカーバイドが結晶として析出するのです。私の研究室には、2,000℃まで加熱できる特殊な炉があります。シリコンカーバイドが結晶成長する状況を作り出し、専用に開発した特殊な顕微鏡を使って、マイクロメートル(1,000分の1 ミリメートル)という微小なスケールで起きている現象を直接観察していきます。シリコンカーバイドには「結晶多形」と呼ばれる、同じ化学組成でも原子の積み重なり方が異なる複数の構造が存在します。複数の構造が混在しないように成長を適切に制御し、基板と同じ構造の結晶を継続的に積層できることが理想的です。30分の観察で、成長界面に結晶の二次元島が形成され、成長していく様子や、うずを巻きながら成長していく様子を確認できます。これらの観察を通じて、結晶の品質がどのような要因に左右されるのかを明らかにし、高品質な結晶を作るうえでの鍵となる要素を提案しています。
シリコンカーバイドの他にも、太陽電池や熱電発電に応用可能な半導体材料の結晶成長や、金属製精錬に関する高温プロセスの研究にも取り組んでいます。研究は多岐に亘りますが、たとえば太陽電池用の硫化スズは、シリコンカーバイドとは結晶そのものの性質は大きく異なるものの、結晶成長過程での原子レベルの現象を適切に制御するという点では共通しています。材料ごとに最適な成長方法を探る作業は、まるで謎解きのようで非常に面白く、どんな材料を扱っていても夢中になります。金属の製精錬では、温度や組成、不純物の状態を巧みに制御しながら、目的の材料を効率よく得るという点で、結晶成長と共通する「反応場の制御」という工学的なアプローチが求められます。例えば鉄は、山から採掘した酸化物状態の鉄鉱石から酸素を除去すれば得られ、銅は硫化鉱石から硫黄や不純物である鉄を取り除くことで得られます。どちらも高温での反応制御が鍵を握っており、そのメカニズムを明らかにし、いかに環境負荷の少ないプロセスを設計するかという点に、大きな面白さがあります」












