大学での学びの内容を知る④ (国際関係学) Part 1

大学での学びの内容を知る④ (国際関係学) Part 1
大学での学びの内容を知る④ (国際関係学) Part 1

 「大学での学びの内容を知る」をテーマに大学の先生方のインタビューを交えながら大学での学びについて紹介する企画の第4弾。今回は「国際関係学」の学びについて取り上げる。国際関係学は、時代と共に変化する国家間の関係や、各国家の立場の相違から発生する問題など、グローバルな課題と向き合う学問だ。今回の特集では、法政大と大阪大での学びの内容を紹介する。大学で何を学ぶべきか、大学選びの参考にしてもらいたい。


 1  国際関係学の学びの実例~法政大法学部国際政治学科~


 法政大は、1880年に設立された日本で最初の私立法学校である東京法学社に始まり、140年以上の歴史を持つ、「自由と進歩」の精神と公正な判断力をもって、主体的、自立的かつ創造的に、新しい時代を構築する市民を育て、学問の自由に基づき、真理の探究と「進取の気象」によって、学術の発展に寄与し、多様化する地球規模の課題を解決し、「持続可能な地球社会の構築」に貢献することを目的とする大学である。

 法学部は東京法学社の伝統を受け継ぐ学部であり、現在は法律学科、政治学科、国際政治学科の3学科からなる。

 国際政治学科は、異なる歴史、風土、価値を尊重し合う「地球共生社会」の実現を目指し、観察力、分析力、構想力、交渉力、実行力、英語力を備えた、主体的に行動できる未来志向型の人材を育成する。

 具体的には、初年次必修科目である「国際政治への案内」の他幅広い教養科目を配置し、また実践的な英語力向上のため基礎科目だけでなく専門科目にも英語力向上を目的とした科目が用意されている。2年次以降は、アジア各地域についての充実した学びを通して、政治や外交の広い知識と理論的な分析力を身につける「アジア国際政治コース」と、紛争や軍事問題、国際人権、NGOなど、地球規模の問題に理論と政策でアプローチする「グローバル・ガバナンスコース」の2コースから自身の興味に応じて選択し、専門性を深めていく。なお、政治学科とは相互に設置された科目の履修が可能であり、各人の関心と将来進路に応じた履修が可能である。



法政大 法学部国際政治学科 福田 円 教授インタビュー


■研究の概要

 「私は中国と台湾の関係について研究しています。はじめは、主に、外交文書などの資料を読み解き、両者の関係がどのような歴史的経緯を経て現在の状況に至ったかを探る現代史研究に取り組んでいました。近年は、台湾有事の可能性が議論される中、今後の紛争リスクの評価や、その予防策についても研究を進めています。

 中国と台湾の関係を研究する上では、3つの視点が不可欠です。第一に「地域の国際情勢への理解」です。両者の関係に最も大きな影響を与えてきたのはアメリカの地域戦略であり、昔であればアジア太平洋、現在でいえばインド太平洋という国際関係の枠組みの中で分析する必要があります。第二に「中国の変化」です。中国の内政・外交の変化は、経済発展や軍事力増強を背景としており、これらの要因を総合的に検討することが重要です。第三に「台湾の変化」です。台湾における人々の意識、特に中国との関係をどういう風に位置づけるかは、現代史の中で大きく変容してきました。これらを幅広く分析しながら、今、中国と台湾の関係はどのような状態になっているのか、中国は台湾との「統一」に向けてどういう戦略を持っているのか、台湾の人たちは今の状況をどのように受け止めていて、それが台湾の民主政治の中でどのような形で主張されるのかについて分析しています。また、中国・台湾と日本がどのように関わってきたのかということが国際的に注目されるようになっているので、日本と中国の関係、日本と台湾の関係について外国語で発表するような研究活動も行っています。

 歴史研究の具体的な作業としては、過去の歴史資料を精査し、これまで知られていなかった事実を明らかにしています。例えば、中国で以前公開された1960年代の外交に関する文書では、現在のミャンマーと中国の国境地帯における共産党と国民党の紛争に関する詳細な記録を確認できました。北京の外交部や軍の総参謀部から現地大使への日々の電報を丹念に読み込むことで、当時現場では何が起きていたのかを理解し、再構成することが可能となります。

 そうした研究を通じて、中国と台湾の分断が続いたのは、歴史的に見るとアメリカの影響力が大きかったということがわかりました。加えて、台湾海峡という自然の障壁も重要な要因でした。中国共産党の軍隊は、海軍も空軍も持たない状態から出発したため、台湾への軍事的アプローチは物理的に困難でした。さらに、ソ連からの支援も期待したほど得られず、自力での軍事作戦には限界がありました。他方、台湾に対してはアメリカが支援を続けました。

 1970年代になるとこの状況が変化します。国際社会は中国を重要視するようになり、日本やアメリカを含む多くの国が台湾との外交関係を終了させました。中国はアメリカと国交を樹立すると、改革開放を開始して、経済発展を背景に台湾との統一を呼びかけました。しかしその後、台湾では民主化が進行し、人々は中国との統一を拒否するようになりました。民主的で経済発展を遂げた台湾は、アメリカや日本など外交関係を持たない国々にとっても無視できないものとなり、中国が経済的にも軍事的にも圧倒的な実力をつけた現在に至るまで分断状態が継続することになったのです。

 私の研究においては、中国、台湾、アメリカなど各国の公文書を横断的に参照するようにしています。民主国家では約30年経つと歴史的な公文書が公開されますが、現在の中国ではそういった文書が外国人に広く公開されることはありません。もともと中国は文書に残されたものを重視する文書社会の伝統を持っていて、「档案(とうあん)」と呼ばれる文書は保存されていますが、そういった資料は中国共産党から認められた一部の中国人研究者のみがアクセス可能となっています。私のような外国の研究者は、中国人研究者たちの著作を、信頼できる部分の見極めに注意しつつ、参考にしながら研究を進めているのが実情です。

 現状や近い過去に起きたことの分析は特に困難です。民主国家であっても、最近の文書は公開されず、日本、アメリカ、台湾の政策決定でも、真相を知るまでには時間がかかります。政治家や外交官の解説や回想も出版されますが、これらには主観的な部分もあり、客観的な事実を知るには限界があります。そのため、公開情報(政府文書、報道)の日常的な追跡に加え、現地で政策に関わっている人たちへのインタビュー調査を重視しています。

 中国では、外交部とは別に台湾問題を専門に扱う部署があります。台湾は中国にとって外交問題ではなく内政問題と位置づけられているためです。以前は、そこで実務を担当する官僚や、政権に近いシンクタンクの研究者へのインタビューを重ねてきました。彼らは政権との距離が近く、政策決定過程についての貴重なヒントを与えてくれる存在でした。

 しかし、最近は中国へ渡航してインタビュー調査をすることは困難になってきています。コロナ禍の間はオンラインでの交流に限定されましたが、オンラインでの率直な意見交換は難しい面もありました。最近では、中国の研究者が来日した際に、意見交換や会議を開催したり、食事をしたりしながら交流する機会を大切にしています。

 対照的に、台湾には極めて開放的な社会があります。私のような研究者でも、政治人物や閣僚・官僚と直接話す機会を設けてもらえます。客好きな気質もあるのか、外国から来た研究者に対して、丁寧に対応しなければという意識を持ってくれているようで、高位の政治家でも1~2時間の面談時間を確保してインタビューをさせてくれることもあります。日台関係の良好さも、こうした研究活動を後押ししています。最近では、台湾の政治家が訪日した際、日本の政治家との会談を済ませた後に、「日本の普通の大学生とも意見を交換したい」と申し出てくださったことがありました。私の大学に来ていただき、ゼミの学生たちと自由な意見交換の場を設けることができました。こうした開放性は、台湾社会の特徴をよく表しています。

 ただ、このような状況なので、研究において中立であることには常に気をつけています。情報量や接触できる度合いにはどうしても差が出てしまいますが、その差のせいで分析が歪んでしまうことは避けなければなりません。この点については、常に自覚的である必要があります。

 他の活動として、研究者同士の交流の場を作る活動も精力的に行っています。現在、日本は中国と台湾の研究者の交流拠点としての役割も担うようになってきています。コロナ禍前までは両者間の学術交流も存在しましたが、現在は困難になっています。そのため、日本での学会や研究会などの場で、双方の研究者が交流することも増えています」

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