大学での学びの内容を知る④(国際関係学) Part3

大学での学びの内容を知る④(国際関係学) Part3
大学での学びの内容を知る④(国際関係学) Part3

本記事は大学での学びの内容を知る④ (国際関係学) Part 2の記事の続きです。そちらも合わせてご覧ください。


大阪大 大学院国際公共政策研究科 片桐 梓 准教授インタビュー


■研究の概要


 「私が継続的に取り組んでいる研究テーマは、戦争と平和のメカニズムです。国家間でなぜ戦争が起きるのか、またその一方で、大方の場合において戦争には至らずに平和が保たれるのはなぜかという問題を探究しています。


 国家間において、通商問題、外交問題、領土問題、領事関係の問題など、さまざまな『いざこざ』が日常的に発生しています。例えば日本も、アメリカや中国、韓国などとの間に複雑な課題を抱えています。このように多くのいざこざ=国家間紛争が存在している一方で、戦争のように武力を用いて紛争を解決しようとすることは稀であり、これらの問題の大部分は、外交的手段によって平和的に解決されています。


 しかし、その中でも一部の国際紛争は、次第にエスカレートしていくことがあります。最初は外交的な抗議から始まり、外交交渉を通じた平和的解決の努力が実らない場合に、経済制裁といった非軍事的措置へと発展する場合もあれば、軍事力の行使をちらつかせる段階に至ることもあります。多くの場合、このような脅しの段階で一方もしくは双方が譲歩し、なんとか戦争を回避することがほとんどですが、稀に実際の武力行使、さらには全面戦争まで行ってしまうケースが存在するのです。


 なぜ大多数の紛争は平和的に解決されるにもかかわらず、一部の紛争は相互非難の応酬と実力行使の脅しを経て、時には全面戦争にまで発展してしまうのか。この平和的解決とエスカレーションの分岐のメカニズムを解明することが、私の研究の主要なテーマです。言い換えるならば、なぜある紛争は外交的に収束し、別の紛争は破滅的な結末を迎えるのか。この違いを生み出す要因を科学的に解明することは、将来の紛争予防にとって極めて重要な知見となります。


 私の研究アプローチの特徴は、計量的な手法を用いることにあります。従来の国際関係論や外交史研究では、歴史的事例を一次資料やその他の二次資料をもとに詳細に分析する質的研究が主流でした。これに対して、私は計量的手法を用いて、国際紛争がエスカレートするメカニズムを分析しています。戦争に至った事例の背後には、たくさんの何も起こらなかった、つまり平和的に解決された事例が存在します。これらに関して、既存の先行研究で作成されたデータセットを使用するだけでなく、特定の紛争や危機に関して機密解除された外交文書、対外政策決定に関する文書をデジタル化して、テキストデータに変換し、機械学習やAI技術を活用して分析を行っています。


 私が分析に使用する文書は、基本的に国家の政策決定に関するような機密文書なので、開示されるまでには時間はかかります。また、その中でも機密なものほど開示には時間がかかりますし、現在でも解決していない問題に関するものなどは開示されません。それでも、民主主義国家では体系的な文書公開が制度化されている場合が多く、アメリカでは情報公開制度に基づいて多くの文書が公開されていますし、イギリスや韓国でも同様の制度が確保されており、このような手法で対外政策決定過程を研究する土壌が整っているといえます。


 その上で、例えば、「アメリカのホワイトハウスでどんなディスカッションがされていて、どのような条件下で紛争をエスカレートするような行動を取ることがあるのか。逆にどのような条件下でより譲歩的な行動を取ることがあるのか」に関する知見はある程度固まってきています。まず、相互主義的な傾向が極めて強いことが指摘できます。それには、相手国が敵対的な行動を取れば、こちらも敵対的な行動を取る、という傾向があります。その上で、政策決定者たちが国家や政策決定者自身の威信や評判を守らなければならないと感じているときに紛争をエスカレートする傾向が指摘されています。つまり、政策決定者が『弱腰』という評判を恐れる場合、強硬な行動を選択する傾向があります。この一方で、両者が実際の戦争による多大な損害を危惧し、何とか妥協点を見つけたがっている場合に、双方が一定程度の軍事的行動などを取って国内向けのアリバイ作りをしながら、暗黙の了解のもとで紛争の沈静化を図るケースも多く見られます。今年6月のアメリカによるイラン核兵器施設の空爆とその後のイランの対応と事態の収集はその好例です。つまり、軍事的行動もコミュニケーションの一形態であり、相互の能力と意図をお互いに示し、読み取りながら『落としどころ』を探す一種の交渉なのです。


 また、国際紛争のエスカレーションと沈静化という論点に関連して私が取り組んでいる問題として、外交政策決定過程における政策と世論との関係という問題があります。つまり、世論が外交政策にどのような影響を与えるのか、もしくは与えないのか、また、政策決定者やエリートがどの程度世論に対して影響を与えているのかという極めて複雑な問題です。例えば、この数年間、私はベトナム戦争がどのように沈静化していったのかというテーマにも取り組んでおります。ベトナム戦争に関する学会の通説として、ベトナム戦争は戦争の泥沼化を伝える報道や反戦デモの増加といった、国内の厭戦機運に政策決定者が押される形で沈静化に向かっていったという説明が一般的になされます。しかしながら、私が機密解除された米国のベトナム戦争に関する政策文書をデジタル化し、統計的に解析した結果は、この通説とは大きく異なるものでした。米国政府内における政策議論と週レベルの国内の出来事とを照らし合わせて分析すると、国内の厭戦機運を示す出来事が実際のホワイトハウス内の政策議論に与えた影響の大きさを検証できるわけですが、彼らがディエスカレーション(段階的撤退)を議論する際、短期的な世論の変動̶デモの規模や戦争報道の増減や支持率の上下̶による直接的な影響が確認されませんでした。むしろ、彼らの政策議論は、戦場の状況、つまりどれだけの兵士が犠牲になったか、軍事作戦がどの程度成功しているか、といった軍事的要因に直接的に影響を受けていることが明らかになりました。


 最近では、世論調査の発達により、どういう条件で世論がどのように変化するかを検証することは比較的容易にできるようになりました。しかしながら、上記のような世論と政策のリンクに関する研究が示唆するように、世論を政策決定者がどのように勘案して政策に反映しているのか、それともしていないのかという点について、更なる研究が必要といえるでしょう」

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