大学での学びの内容を知る④(国際関係学) Part4

大学での学びの内容を知る④(国際関係学) Part4
大学での学びの内容を知る④(国際関係学) Part4

本記事は大学での学びの内容を知る④(国際関係学) Part3の記事の続きです。そちらも合わせてご覧ください。

■学生の学び

 「私のゼミには毎年約20名の学生が参加しています。ゼミ活動は大きく2つの部分から構成されています。前半では国際関係論の最先端の英文論文を読み、理論的基礎を固めます。後半では、私が設定した研究プロジェクトに学生がグルー プで取り組みます。

  研究プロジェクトでは、約7名のグループを3班編成し、協力して研究に取り組んで、成果を国際学会で発表するというプロセスを実際に体験してもらうことにしております。研究テーマは現在の国際政治学会で発表できそうな最先端のトピックを私が選定・設定しています。昨年度の研究テーマは以下の3つでした。 第一に、『最後通牒』の効果に関する研究です。危機交渉において時間的制約を設けることが、紛争行動のエスカレーションまたはディエスカレーションにどのような影響を与えるかを検証しました。第二に、首脳外交の効果に関する研究です。 なぜ首脳会談が行われるのか、その効果を実証的に分析しました。第三に、アメリカ国務省の外交電報を用いた研究です。各国の政権交代時における外交政策の変化を、国務省の外交官がどのように予測していたかを分析しました。

  これらの研究プロジェクトを通じて、学生は仮説の構築、先行研究の検討、エビデンスの収集という社会科学的思考の基礎を学びます。正直なところ、半期という限られた時間では、研究論文を書くためのスタートラインにたどり着くことで精一杯だったりします。先行研究の検討が不十分になったり、エビデンスが上手くデータとして集められなかったりといったケースも多いです。しかしながら、たとえ完成度の高い研究に至らなくても、研究とは何かを体験的に学ぶこと自体に大きな意義があります。データと格闘し、仮説を検証するといった経験は、座学では決して得られない貴重な学びですし、その過程で得たスキルは将来どのような職業を選んでも役立つと思います」

■高校生へのメッセージ

 「現代は不確実性の時代です。国際政治情勢も地域情勢も、少しずつ不安定化してきています。このような状況において、国際政治のダイナミクスを理解し、それを分析するための道具を身につけることは極めて重要です。国際関係の知識と分析力は、社会科学のあらゆる分野で有用です。投資やビジネスにおける判断、 金融市場の分析、政策立案への参画、ジャーナリズム活動など、どのような職業においても、国際関係を学ぶことで得られる視野の広さは大きな強みとなります。

  また、AIの発展により、『なぜ勉強するのか』『大学の意味は何か』というように知性に対する根本的な問いが提起されています。確かに、単なる知識を習得し、機械的に当てはめるという点に限ってみれば、大学の存在意義は薄くなっていかざるを得ないでしょう。ChatGPTをはじめとする生成AIは、膨大な知識を瞬時に提供し、レポートや論文を難なく作成してくれます。このような状況で、『AIがあるのになんで勉強するんだろう』と疑問を持つ学生が増えているのも無理はありません。

  しかしながら、AIが出力してきたものを無批判に受け入れるだけで、その真偽や事実関係を自らが確認・検証することができないとすれば、豊かな知的生活を送ることはできないでしょうし、ある意味AIに使われる生き方となってしまいます。AIがいくら発展したとしても、物事を批判的に捉えたり、何かを生み出すために試行錯誤をしてみたり、新しいものを創造するためのトレーニングを受けたりといった場が必要となります。

  大学は、こうした能力を総合的に育成する場です。大学では、友人や教員との対面でのディスカッションを通じて、自分とは異なる多様な考え方に触れる機会が豊富に存在します。人との対話の中では生成AIのようにただ結論が出力されることはなく、そこに至るプロセスが人それぞれにあるということを身をもって実 感します。また、さまざまな文章を読解し、自らの考えを文章として表現するという、情報を自分の力で入力し出力する能力も養われます。大学教育とはそういったことに関する総合的なトレーニングを受けられる絶好の機会だと考えています。
 そして重要なことは、多くの人にとって、大学がこうした知的訓練を受ける最後の機会となることです。もちろん、強いモチベーションがあれば、人生のどの段階でも自己研鑽は可能です。しかし現実には、社会に出て仕事を始めると、日々の業務に追われて、じっくりと思考を深める時間を確保することは難しくなります。

  AIの発展により、『知性とは何ぞや?そもそも必要なのか?』という問いに対する考え方が多様化していくことが予想されますが、そういう時代であるからこそ、大学に入っていろんなことを体験したり、ディスカッションしたり、いろんな人と時間を共有したりということを大切にする、というのを一つの目標にして、 大学を受験して進学してほしいと思います」

 ★おすすめコンテンツ紹介 

 『民主主義の死に方:二極化する政治が招 く独裁への道』スティーブン・レビツキー/ ダニエル・ジブラット 著、濱野大道 訳(新 潮社2018年)

 『民主主義の壊れ方:クーデタ・大惨事・ テクノロジー』デイヴィッド・ランシマン 著/若林茂樹 訳(白水社2020年)

 ~コメント~ 

 「日本では実感しづらい面がありますが、民主主義というものは簡単に壊れ得る、奪われ得るものです。SNSの発達により、我々の情報や考え方がいとも簡単に他者によって操作されやすい時代であるからこそ、一人ひとりがリテラシーを持ち、理性的な判断力を保つことで、民主主義的価値や制度を守っていくことが重要であることに気づかされます」

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