大学での学びの内容を知る⑤(生物系) 生物系の学びの実例~福井県立大恐竜学部~  〈福井県立大 恐竜学部 西 弘嗣 教授インタビュー〉 ■研究の概要

大学での学びの内容を知る⑤(生物系) 生物系の学びの実例~福井県立大恐竜学部~  〈福井県立大 恐竜学部 西 弘嗣 教授インタビュー〉 ■研究の概要
大学での学びの内容を知る⑤(生物系) 生物系の学びの実例~福井県立大恐竜学部~  〈福井県立大 恐竜学部 西 弘嗣 教授インタビュー〉 ■研究の概要

 「大学での学びの内容を知る」をテーマに大学の先生方のインタビューを交えながら大学での学びについて紹介する企画も最終回。今回は「生物系」の学びについて取り上げる。生命の謎に迫るこの領域では、最新の技術も取り入れながらさまざまな手法での研究が行われている。今回の特集では、京都大と福井県立大での学びの内容を紹介する。大学で何を学ぶべきか、大学選びの参考にしてもらいたい。 

 また、併せて今回は数理・データサイエンス・AI 教育に関する各大学の取り組みに関する認定制度についても紹介する。


生物系の学びの実例~福井県立大恐竜学部~

 福井県立大は、1992年に開学した、時代の発展に即応した学術文化の高度化を推進する拠点として、真理探究の精神、広い視野と豊かな創造力、高度で専門的な知識・技術を有する有為な人材を養成するとともに、先進的な科学の研究および技術の開発を行い、学術情報を地域社会へ開放することにより、福井県はもとより、日本の産業と文化の発展に寄与することを目的とする大学である。恐竜学部は今年2025年に開設された学部であり、現代社会の地球科学の諸問題に対応するため、幅広い教養と地球科学に関する知識・技術を持ち、多様な局面において協働的および自主的に課題を探求・解決できる人材を育成する。

 

 具体的には、1、2年次には教養科目や専門基礎科目を学び、幅広い知識を身につけ、調査研究手法を修得する。3年次には「恐竜・古生物コース」と「地質・古環境コース」の2つのコースに分かれ、少人数教育のもとでより高度な専門知識を身に付けるとともに、実験や実習、フィールドワークを通して課題解決の技術を修得する。4年次にはこれまでに修得した専門知識と技術を基に卒業研究を行う。


図1 福井県立大恐竜学部カリキュラム


〈福井県立大 恐竜学部 西 弘嗣 教授インタビュー〉

■研究の概要

 「私は大学に入った当初、地質学から研究を始めました。その後、古生物学を学び、環境学も研究するようになって、この3つの分野を今まで研究しています。卒業論文や修士論文では、実際に野外に出て山を歩き、地質図を作って、そこから産出する化石を研究していました。層序学という、地層の重なりの順序を研究する分野なのですが、地層の年代を定めて、地質構造がどうなっているかを解明することが、学部・大学院時代の仕事でした。

 

 教員になってからは、微化石、特に有孔虫という数百ミクロンから1ミリ以下の海洋プランクトンを専門に研究しています。この生物は炭酸カルシウム、つまりチョークのような殻を持つプランクトンで、海底に住むものと海の表層に浮いているものの2 種類があります。微化石には、他にもガラス質のケイ酸塩の殻を持つものや、有機物だけの殻を持つものもありますが、私はこの炭酸カルシウムの殻を持つ浮遊性有孔虫の研究を続けてきました。

 

 この有孔虫は、約1億5000万年前から現在まで生き続けています。そして、殻の中には当時の温度や栄養塩、塩分などのさまざまな海洋の情報が、読み取れる形で残っています。殻を分析して測定すると、そのプランクトンが住んでいたのが暖かいところか、寒いところかがわかります。例えば、北海道の白亜紀の地層を研究した結果、この生物の情報から約8000万年前の北海道の気温は今の台湾くらいであったことが推定されました。こうした分析によって、地球上で過去に何が起こったかを明らかにできます。また、教員になってからは、国際深海掘削計画という研究プロジェクトに5回ほど参加して、海の堆積物を採取して研究を続けてきました。

 

 海の研究の利点は、陸と違って連続的な地層が残っていることです。河川や湖などの陸上で堆積した地層は、雨が降ったり、地層が削られたりして、完全に連続的な記録が残っていることは稀です。それに比べて、海は堆積物が最終的に蓄積される場所なので、地層の記録が連続的で読み取りやすい状態で保存されています。さらに、太平洋などの大きな大洋の真ん中では、上から受ける圧力が少なかったり、温度が低かったりするので、化石が良い状態で残っており、環境の情報が取りやすい利点があります。

 

 一方で、そのような陸から遠いところにたまる堆積物の欠点は、堆積の速度が非常に遅く、1000年に数ミリメートル程度でしかたまらず、地層の厚さはきわめて薄くなります。そうすると、薄い地層の中に数十万から数百万年間の情報が入っていることになるので、解像度はどうしても粗くなります。ところが、陸に近い周辺に堆積する海の地層では、陸から砂や泥が運ばれてくるので堆積速度が速くなり、海の地層であっても1000年から数万年の単位で、時間の変化を追うことができます。そのため、陸から近い海の地層と大洋の真ん中にある地層の両方をあわせて研究することで、過去の連続的な時間変化を追跡できるようにしています。

 

 この地層研究からわかることの1つは、気候変動の歴史です。例えば、恐竜のいた白亜紀は非常に温かい時代でした。両極に氷が無くて、二酸化炭素濃度も現在より非常に高く、現在400ppmのところが1,000~2,000ppmくらいあっただろうといわれています。その後、約6600万年前に地球に隕石がぶつかって大きな絶滅が起こりました。恐竜はほとんど絶滅してしまい、その後に哺乳類が出てきたわけです。約5500万年前までは温かい時代がずっと続いていて、両極に氷床がなく、二酸化炭素濃度も1,000ppmを超えていた時代がずっと続きました。ところが、約5000万年前になると急激に気温が下がってきて、約3400万年前には南極で氷床が拡大したといわれています。その後、どんどん二酸化炭素濃度が減ってきて200~300ppmとなり、気温も寒くなっていきました。北極で氷床が拡大したのは諸説ありますが、約270万年前といわれています。その後、氷期と間氷期のリズムができてきて、約1 万8000年前には北極の氷床が拡大し、ヨーロッパや北アメリカ、ニューヨークあたりまでの範囲が氷で覆われた世界になりました。その後は温暖化して現在へとつながっています。

 

 このように、海の地層から年代ごとの気候状況などを詳細に解明していくことは、恐竜学の研究においても非常に重要となります。特定の種がどの時代に現れ、どのように変化し、いつ絶滅したのかを理解するためには、年代を正確に把握することが不可欠です。 

 

 しかし、先ほど紹介したように、陸上の地層は削剥などの影響を強く受けるため、年代を決めることが難しいという問題があります。陸上では火山灰が含まれている場合はそこを基準に年代が測れますが、それが無い場所では年代決定が困難な場合が多くなります。そこで、海の地層の研究で積み重ねてきた知見と恐竜が産出する陸で堆積した地層の研究を組み合わせることで、恐竜の進化をより正確な時間軸の中で理解できるようにしたいと考えています。特に、年代さえきちんと決まってしまえば、産出した化石の情報は全部活用することができます。それらの情報を組み合わせることで、当時の環境変化や絶滅の事件などを説明できるストーリーを組み上げることも可能になります。地球でこれまでに起こった出来事を解明する営みの土台となる時間の基準を、できる限り詳細に作っていこうということが、私の研究の基本です」

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