大学での学びの内容を知る⑤(生物系) 生物系の学びの実例~福井県立大恐竜学部~ Part2
本記事は「大学での学びの内容を知る⑤(生物系) 生物系の学びの実例~福井県立大恐竜学部~ 〈福井県立大 恐竜学部 西 弘嗣 教授インタビュー〉 ■研究の概要」の続きです。そちらも合わせてご覧ください。
1生物系の学びの実例~福井県立大恐竜学部~
■学生の学び
「私たちの恐竜学部では、自然科学とデジタル科学という2つの大きな柱でカリキュラムを組んでいます。これらの2つの分野について、それぞれに学ぶだけでなく互いに密接に関連し合うように設定をしています。
自然科学の分野については、まず基礎となる地質学、古生物学、そして生態学を学んでもらいます。現在の生物に関する学問である生態学を勉強することに疑問を持つ方もいるかもしれませんが、絶滅した動物の生態を理解するには、現在生きている動物の生態を知っておかなくてはなりません。例えば骨の形態はその生物の生態と非常に関係が深く、歯の形状をみればその生物が何を食べていたのかを知ることができます。肉食動物と草食動物の歯は当然違いますし、こういう植物を食べている生物はこういう歯の構造をしている、といったように、生物は生態に即した身体的な特徴を持っています。恐竜の研究では、見つかった骨の特徴からその生物がどのような生態だったのかを読み取っていくので、土台として生態学の知識が不可欠となります。
実習では、実際に山を歩いて岩石をどうやって調べるかという手法を基礎から学びます。この技術は恐竜の発掘には欠かせません。また同時に、CTスキャン装置を使った研究の手法も身につけていきます。CTスキャンは物体を壊すことなくその内部構造を解明することができるとても強力な方法です。例えば、トリケラトプスの骨をスキャンして、三半規管の構造を復元すると、この生物の頭部がどういう角度で傾いていたか、どういう音が聞き取りやすかったかを推定することができます。これまではみることができなかった内部まで詳細に解析することができるので、今まで博物館で眠っていたような試料からも新発見が期待できるので、現在、恐竜学が特に力を入れて研究を進めている分野です。
そのため恐竜学部では、今後の研究で不可欠になるであろう最先端のデジタル技術について、一から学ぶことができます。CTスキャン装置を用いた資料の撮影から、画像に入り込んだノイズなどのクリーニング処理、出来上がったコンテンツをどうやって解釈するか、そのコンテンツをどうやって使うか、といったように、実際の作成過程をプロセスとして勉強していきます。
恐竜学部では習得した技術を使い、恐竜を対象として研究を行いますが、その過程で身につけた技術は扱う対象が変わっても応用が効きます。CTスキャンを活用している産業へ就職したり、デジタル技術を使って様々なコンテンツを作ったりといった形で、卒業生が活躍してくれることを期待しています。
自然科学の面でも社会との接点についていえば、我々が研究を通じて身につけている地質に関する知見や地質からデータを解析して取り扱う能力は、災害対策という面からみても必要不可欠なものです。土木や建築の会社や地方行政機関などでは、どこが滑りやすい地層か、どこに断層があるか、ここがどういう地層で崩れやすいか否か、といった情報を常に求めていて、そういった情報は全て地質からいかにデータを読み取れるかに依存していますので、地質学を学んだ学生はそういった分野でも活躍してくれると思います」
■高校生へのメッセージ
「高校時代は確かに受験が大事なので、そちらの勉強に集中してもらう必要はあります。しかし、それ以外にも、自分に今後役に立つかもしれないとか、これからの社会にとってはこれが大事かもしれないということは、本を読むだけでもいいから、ゆとりのある時に勉強をしてもらった方がいいと思っています。社会に出て働き出すと、時間はますますなくなりますので、できる限り高校生、大学生の時に、いろんな本を読んで学んでおくということが将来、皆さんの役に立つと思います。
特に防災に関しては、日本は自然災害の多い国でもあるので、そういった災害に対してある程度自分で勉強して避難できる、あるいはその災害で起こりうる被害の知識を持っているということが、皆さんにとっても皆さんの家族にとっても重要となります。そういう勉強は受験に関係ないと思ってもしておいてほしいと思います。
私は東日本大震災を仙台で経験しました。この震災でも、津波発生時に取るべき行動を理解しているか、適切な避難行動をとることができるか、ということが重大な分岐点となったケースが数多くみられました。今後も日本では大きな地震は発生するでしょうし、大雨など他の自然災害も発生の頻度が上がっており、命を守るための行動についての知識は今後さらに重要となっていきます。
海のそばに行った時は、地震があったら、津波が来る来ないは別にしてもとにかく高いところ、一番高いところに逃げるということ。大雨が降った時には、崖のそば、川のそばには絶対近づかないということ。それから雷になった時には木のそばには行かないということ。こういった身を守る基本的な行動を徹底するのに加えて、自分の住む場所に潜むリスクを理解しておくことも重要です。
例えば、崖や谷の近くに住んでいれば大雨の時には地滑りが起こるかもしれないですし、昔、河川があったところの上に住んでいると、地震が起こった時には液状化現象が起こり、家が倒壊する危険性があります。身の回りに潜むリスクを意識しておくことは、いざというときに適切に行動するために欠かせません。
こういったリスクに関する知識、そのリスクに対処するための知識は、勉強すればするだけ増やすことができます。そういう勉強は若い高校生のうちに、時間があるときに、なるべくしておいてもらいたいです。
自分の命を助ける、そして命が助かるということは家族を守ることにもつながります。ぜひしっかりと学んでください」









