大学での学びの内容を知る⑤(生物系) 生物系の学びの実例~京都大農学部~ Part2
この記事は「大学での学びの内容を知る⑤(生物系) 生物系の学びの実例~京都大農学部~」の続きです。そちらも併せてご覧ください。
■学生の学び
「京都大の農学部では、学生は4年次から研究室に配属されます。3年次に研究室配属が決まるのですが、早い学生はもうその時点で『これを研究したいです』と自分の志望する研究対象種や研究内容を固めています。なかなかひとつに絞り切れない学生もいますが、たいていはゴールデンウィーク頃までに取り組む研究対象を決めて、卒論に向けて研究に着手することになります。少なくとも、私が所属する研究室では、教員から『あなたはコレをやりなさい』ということはなく、学生が主体的に研究テーマを決めます。この研究室は特に教員が多いので、全体でのゼミはありますけれども、その研究内容と近かったり同じ手法で研究していたりする教員や先輩学生が指導を行っています。例えば、イルカについて研究したいと手を挙げる学生がいれば、私のプロジェクトに参加してもらう、というような形です。
現在一緒に研究を進めている学生の研究を紹介すると、例えば、スナメリのドローン観察をしている学生は、ドローンで撮影した映像から、魚を追いかけ続けて遊ぶような行動など、これまであまり報告がなかった行動を発見しています。最近はテロメアに関する研究をやりたいという学生も多くて、アザラシやウナギで研究を進めています。アザラシのテロメアを研究する学生は、アザラシに興味があるということだったので、『じゃあ今までイルカで調べていたことをアザラシでも調べてみようか』ということで、対象とする水族館のエリアをこれまでよりも広げて、より多くのアザラシを対象に研究を進めています。
ウナギについて研究している学生は、研究室の別の先生が野生ウナギの移動行動を追跡していらっしゃるので、そこで生体に影響が出ない程度にサンプルを取らせていただいて、テロメアを測定する調査を行っています。この研究では、テロメアを追跡していったら季節で変化するのか、個体間でどれぐらい違うのか、ということに興味をもって取り組んでいます。
卒業生の中で今でも研究職として活躍されている方は、スナメリの鳴音分類器の開発をしました。それを開発したことによって10年分のデータを短時間に解析できるようになったので、今はその成果を論文にまとめているところです」
■高校生へのメッセージ
「高校生活は私も大いにエンジョイしていましたが、振り返るとやっぱり貴重な時間だったと感じます。大学も貴重だし、高校も貴重だし、中学も貴重だし、全部の時間が貴重なんですけれども、振り返ってみると高校時代はすごく濃密、濃厚な青春時代だと思うので、勉強も大事ですけれども、いろんなことを楽しんでいただけたらなとすごく思います。
私は特に海外で多く研究をしてきたので、外国で過ごす中で思ったことですが、教養といわれるようなことや自分が体験した文化、過去に旅行したこと、読んだ本のこと、そういうものがふいに共同研究者との会話につながったり、仲良くなるきっかけになった体験はとても多く、本当に何がどこで役に立つかはわからないと思います。
私の研究者としてのスタートは、中国の揚子江(長江の下流)に棲むヨウスコウスナメリの調査だったのですが、このプロジェクトを先生から紹介されたとき、『行く?ただし旅費は自腹だよ』と、金銭的な負担が大きいことも伝えられました。私は将来研究プロジェクトに参加するためにお金が必要だ、と計画して貯金をしていたわけではなかったのですが、大学生の頃めちゃくちゃアルバイトを頑張っていたので、プロジェクトに参加できるだけの貯金が貯まっていました。それがあったから先生から紹介された時に『行きます!行けます!』と即答できたことがありました。その研究が今につながっているので、何が役に立つか本当にわからないなと思います。
なので、何事かにかかわらず、目の前にある取り組むべきことには、一生懸命取り組むのがよいと思います。大学生として勉強にしっかり取り組むということはとても大切ですが、それ以外の経験もすべてが将来につながる可能性があります。
京都大の農学部は対象としている学問分野も広いですし、私の所属する資源生物科学科は大学に入ってからもまだ何を専門とするか選べる余地があります。生物系がいいけど応用分野の研究にも興味があるとか、なにか社会の役に立つものが学びたいとか、環境問題が気になるなとか、いろんな間口から研究に取り組める環境になっていると思うので、ぜひ頑張って目指していただけたらと思います」
★おすすめコンテンツ紹介
『1Q84』村上春樹 著(新潮社2009年)
~コメント~
「海外で活動するなら、村上春樹は共通言語のような存在だと思います。海外の人々との会話のきっかけにもなりますし、やはり有名どころから何冊かは押さえておくと良いと思います。英語力の仕上げとして、英訳版を1 冊読み切ってみるというのもおすすめです。特に『1Q84』は現実と非現実が交錯する壮大な物語で、多くの人と語り合える一冊です」










